手術済動物の識別措置 その4

“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”※(ASVによる避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016;以下「S/Nガイドライン」)から、避妊去勢手術済の動物の識別措置について見ています。

 

Identification of neutered animals 手術済動物の識別措置 ※続き

 

野良猫の耳カット

To ensure a distinct and readily visible identifying mark, approximately a third of the distal earflap should be removed, taking care to transect perpendicular to the long axis of the pinna. 

識別マークがはっきりと目に見えるようにするためには、耳介の長軸に垂直に切断するように注意しながら、耳介の遠位部の約3分の1を切除すべきである。(p176R)

 

Hemostasis of the pinna should be ensured prior to conclusion of recovery observation. 

回復の観察が終わる前に、耳介の止血を確実に行うべきである。(p176R)

 

Instruments should be thoroughly cleaned and disinfected or sterilized between patients to prevent the spread of pathogens.

病原菌の拡散を防ぐために、患者間で器具を十分に洗浄し、消毒または滅菌すべきである。(p176R)

 

【のらぬこの解説】

TNR等で避妊去勢手術の後に元の場所にリターンされる野良猫については、不要な再手術を防ぐことはもちろんですが、不要な再捕獲も避ける必要があります。野良猫の捕獲には猫本人はもちろん、捕獲人にも大きな負担がかかるからです。そのため、避妊去勢手術済みであることが遠くからでもわかるサインが必要です。

「S/Nガイドライン」では、「片耳の耳たぶの先端3分の1を切除」する“ear tipping”が万国共通のサインとして推奨されています。そして耳のV字カットである“ear notching”は、けがによる傷と紛らわしいため「推奨しない」とされています。そのため海外でTNRを学んだ人は、野良猫の耳カットは「ストレートカット」であると認識しています。

しかし皆様もご存じのとおり、日本の耳カットはV字カットが主流です。しばしば「さくら猫」という言葉が用いられますが、V字カットされた耳を桜の花びらに見立てるというのは、世界に誇る日本人の美意識であると私は思います。

また左右どちらの耳をカットするかという点においても異なります。米国では「どちらかの耳をカットしておけばよい」とかなりアバウト(西海岸と東海岸で違ったりもする)なのですが、日本では「オスは右耳、メスは左耳」という暗黙の了解が存在します。概して日本の方が、芸が細かいといえます。

当然ですが耳たぶの切除は麻酔が効いた状態で行います。止血は鉗子や止血剤などを用いて行います。

 

※JAVMA • Vol 249 • No. 2 • July 15, 2016 -https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml