術後の回復

“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”※(ASVによる避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016;以下「S/Nガイドライン」)から、麻酔拮抗薬の投与と回復場所からの移動について見ていきましょう。

 

Anesthetic reversal 麻酔拮抗薬の投与

Rapid IV administration of reversal agents should be avoided except in emergency situations.

拮抗薬の急速な静脈内投与は、緊急事態を除いて避けるべきである。(p179L)

 

【のらぬこの解説】

ある薬物の効果を打ち消したり、弱めたりする薬物のことを、その薬物の「拮抗薬」といいます。犬や猫の避妊去勢手術終了後に、術前に投与した鎮静剤、麻酔剤、または鎮痛剤の拮抗薬を投与し、回復を早めることがあります。

一般的に、避妊去勢プログラム(いわゆる一斉手術)のように速やかに回復させて飼い主等に戻す必要がある場合に、拮抗薬が投与されます。また麻酔事故のように医学的理由で速やかに回復させる必要がある場合にも、拮抗薬が用いられます。メデトミジンの拮抗薬のアチパメゾールがよく用いられますが、オピオイドの拮抗薬のナロキソンが用いられることもあります。

拮抗薬の投与は回復を早めるだけではなく、麻酔に起因する心肺機能の低下や体温調整機能の低下を回復させる効果もあります。しかし早く回復させようとして拮抗薬を急速に投与してしまうと、痛みがぶり返したり不安が増大し、最悪の場合発作を起こすおそれがあります。そのため、麻酔事故等の緊急時を除き、拮抗薬の急速な静脈内投与は避けるべきです。筋肉内注射もしくはゆっくりとした静脈内注射が推奨されます。

 

Return to patient housing 患者を一時預かり施設に戻す

Following initial recovery, patients should be periodically evaluated for changes in mental status and overall condition that could signal potential complications, stress, or pain. 

初期の回復後は、潜在的な合併症、ストレス、痛みを示唆するような精神状態や全身状態の変化がないか、定期的に患者を評価すべきである。(p179L)

 

Cleanliness should also be carefully monitored. 

また、清潔にも留意すべきである。(p179L)

 

Pediatric, geriatric, frail, and at-risk patients should be protected from hypoglycemia and dehydration by offering small amounts of food and water as soon as appropriate, on the basis of adequate neurologic status, including mentation and swallowing reflexes.

幼齢、老齢、虚弱体質、リスクのある患者には、意識や嚥下反射などの神経学的状態が十分であることを前提に、必要に応じてすぐに少量の食事や水を与えることで、低血糖や脱水を防止すべきである。(p179L)

 

【のらぬこの解説】

術後に回復した動物を一時預かり施設(ケージやラン、捕獲器など)に戻す際には、確実に術前の位置に戻せるよう、個体識別番号を再確認します。

 

※JAVMA • Vol 249 • No. 2 • July 15, 2016 -https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml