シン・シェルターメディスン超入門(2)「譲渡ありき」の限界

前回私は、シェルターメディスンを「安直な安楽殺に頼ることなく、アニマルシェルターに収容されている動物の福祉を担保するための獣医療」と定義しました。そしてそれを実現するためには、アニマルシェルターに入る動物の数を減らせばよいと述べました。

そう言うと「アニマルシェルターから出る動物の数を増やせばよいではないか」という意見をいただきます。実際日本の行政は国(環境省)も地方自治体も「譲渡を増やして殺処分を減らす」ことに躍起になっています。そのことがざまざまな問題を引き起こしていることはこのブログで散々述べてきたところですが、「譲渡ありき」で出る動物を増やそうとすることがなぜが問題なのかについて、簡単にまとめておきます。

 

リソースは有限

一般的に、アニマルシェルターから動物が「生きて」出る(ライブリリース)パターンは次の4つです。つまり「飼い主への返還」「新しい飼い主への譲渡」「他の団体やボランティアへの移送」そして「RTF(野良猫のリターン)」です。このうち「返還」や「RTF」は動物が元の場所に戻るだけですので特に問題は生じませんが、対象が限られているため大勢に影響はありません。ライブリリースの大部分は「譲渡」や「移送」となりますが、当然ながらこれらの受け入れ先は有限です。特に地方では個人への譲渡は難しく、保護動物の大部分はボランティアに「団体譲渡」されます。これは単なる言葉遊びで、実態は他団体への「移送」にすぎません。その後譲渡の需要が多い都市部に移送されることが多いですが、避妊去勢手術未実施のまま譲渡され逸走して繁殖したり、感染症の蔓延につながるなど問題が生じています。また自治体が「殺処分ゼロ」の名のもとにボランティアに動物を丸投げし、ボランティアが多頭飼育崩壊に陥るような事例も散見されます。

 

終わらない自転車操業

もうひとつの問題点は、いくら頑張って譲渡したとしてもアニマルシェルターに入ってくる動物の数が減らない限り、それがいつまでも終わらないことです。一部のボランティアの方はこのことに気づいていて、私の周りにも保護活動からTNR活動やスペイクリニック支援に軸足を移している方がおられます。

 

目先のことだけ考える

そしてもっとも懸念されるのが、自治体が目先の「殺処分ゼロ」を達成すればよい、そのためには譲渡(=ボランティアへの丸投げ)を増やせばよいと安直に考え、収容される動物をいかに減らすかと言う視点で物を考えなくなることです。これは公務員特有の「先送り体質」なのですが、自治体が動物をボランティアに押し付け、まやかしの「殺処分ゼロ」を演出していたとしても、収容される動物の数自体を減らさない限り、いつか破綻します。