私はシェルターメディスンを「安直な安楽殺に頼ることなく、アニマルシェルターに収容されている動物の福祉を担保するための獣医療」と定義しました。そしてそのためにはアニマルシェルターに入る動物の数を減らせばよいと書きました。つまりシェルターメディスンは「シェルターに動物を入れないための獣医療」という側面もあるのです。
では、なぜアニマルシェルターに動物を入れないことが動物の福祉につながるのか、2つの観点から考えてみたいと思います。
その1 収容動物数の適正化
アニマルシェルターにはそれぞ収容能力があります。収容能力とは単にケージの数だけを指すのではなく、スタッフ数や付帯設備なども含めて総合的に算出されなければなりません。収容能力を超えた数の動物を受け入れてしまうと、当然ですが各動物に対するケアの質が低下します。その結果、収容動物の福祉が低下するわけです。収容能力の厳守は、シェルターメディスンの基本事項のひとつです。
その2 収容によるリスク回避
たとえシェルターの収容能力に余裕があったとしても、そもそも動物をシェルターに入れること自体にリスクがあります。そのリスクは「感染症のリスク」「ストレスのリスク」そして「安楽殺のリスク」です。
感染症のリスク
アニマルシェルターにはペットや野良犬・野良猫など、さまざまな出自の動物が集まってきます。その中には感染症に罹患していたり、病原体の健康保菌者もいるかもしれません。ワクチンの接種状況や駆虫の状況もまちまちです。最悪の場合、悪性の感染症のパンデミックが起こってしまう可能性もあります。
ストレスのリスク
収容動物にいくら快適な収容環境を提供していたとしても、意地悪な言い方をすれば施設に監禁されていることに変わりはありません。特に犬や猫は家庭動物として改良されてきた動物ですから、人間と離れてケージの中で生活することはそれ自体がストレスになります。ストレスは精神的不調からくる行動異常の原因となり、さらに譲渡が遅れるという悪循環を生じさせます。またストレスは免疫力を低下させ、感染症などの病気の原因となります。
安楽殺のリスク
動物が怪我や病気で苦しんでいるのであれば話は別ですが、収容能力に余裕があるアニマルシェルターにおいて、健康な動物が安楽殺されることはまずないでしょう。しかし不測の事態によって収容能力を超える数の動物が収容されるかもしれませんし、シェルターの被災やスタッフの離職などにより収容能力が減ってしまうかもしれません。シェルターに入ってしまった以上、安楽殺のリスクは皆無ではないのです。