シン・シェルターメディスン超入門(6) シェルターメディスンの基本的な考え方

ここまでシェルターメディスンの基本的な考え方について述べてきましたが、簡単にまとめておきます。

 

シェルターメディスンの定義

シェルターメディスンとは「安易な安楽殺に頼ることなく、アニマルシェルターに収容された動物の福祉を担保するための獣医療」と定義できます。しかしそれだけにとどまらないのがシェルターメディスンの奥深いところです。

 

動物の福祉とは

動物の福祉は、「5つの領域(Five Domains)」すなわち「栄養(Nutrition)」「環境(Environment)」「健康(Health)」「(行動の)機会(Opportunity)」「精神状態(Mental state)」のそれぞれにおける「嫌な体験」を減らしつつ「うれしい体験」を増やしていくとともに、各領域間のトータルバランスも考慮しつつ実現されます。

 

シェルターの収容能力

アニマルシェルターの収容能力は単なるケージの数ではなく、スタッフの数や付帯設備なども含め総合的に算出されます。シェルターの収容動物の福祉を担保するためには、能力を超える数の動物を抱えてはなりません。シェルターの収容動物数をいかに収容能力内に抑えるかということも、シェルターメディスンの重要なテーマです。そのためには「できるだけシェルターに動物を入れないこと」そして「やむを得ず受け入れた動物はできるだけ早くシェルターの外に出すこと」が求められます。

 

シェルターに動物を入れない

シェルターメディスンは「アニマルシェルターに動物を入れないための獣医療」という側面も持ちます。シェルターに動物を入れることはシェルターの収容能力を超える動物を抱えてしまうリスクを招くばかりでなく、その動物にとっても感染症やストレス、安楽殺のリスクを与えることになります。そのためマイクロチップや避妊去勢手術の普及や飼い主教育など、シェルターに動物を入れないための方策がシェルターメディスンの重要な分野として位置づけられます。

 

動物をできるだけ早くシェルターの外に出す

シェルターメディスンはまた「アニマルシェルターから動物をできるだけ早く出すための獣医療」という側面も持ちます。動物をシェルターに入れるリスクは、滞在期間が長くなるほど増加します。シェルターに受け入れた動物はできるだけ早い譲渡に向け計画的なケアを実施していくことが理想です。また譲渡が難しい動物であっても、他のシェルターへの移送やRTF(野良猫のリターン)などの方法が検討されます。その際にはあくまでも滞在期間の短縮につながるか否かで判断します。

 

アニマルシェルターにおける動物のケアは、これらの原則のもとに実施されることになります。シェルターメディスンはシェルターの中の動物だけではなく、地域全体の動物が対象であるということを認識しておく必要があります。