シェルターに入る動物の数を減らすための方策の「一丁目一番地」といえるのが、犬や猫の避妊去勢手術の普及です。
アニマルシェルターには迷子のペットも入ってきますが、多くは「不要」とされた動物たちです。具体的に言えば、飼い主が飼いきれなくなったペットや、飼い主がいない野良犬・野良猫です。野良犬や野良猫も、元をただせば飼い主が飼いきれなくなったペットやその子孫です。つまりペットの過剰繁殖を防止することが「不要」とされる動物の数を減らし、結果としてシェルターに入る動物の数も減らすことができます。避妊去勢手術がシェルターメディスンの重要な分野として位置づけられているのはこのためです。
Spay-Neuter Program
米国において、アニマルシェルターや動物保護団体などが犬や猫の過剰繁殖防止を目的に低料金で実施する避妊去勢手術を“Spay-Neuter Program”といいます。その対象は主に「飼い主がいない猫」と「低所得者のペット」、そして「意識の低い飼い主のペット」です。
もちろん米国においても、ペットの繁殖制限は飼い主の責務です。多くの飼い主は、ペットの避妊去勢手術をかかりつけの動物病院で実施します。しかし一部の飼い主はさまざまな理由によりペットに避妊去勢手術を実施せず、その結果、過剰繁殖させてしまったり、逸走したペットが野外で繁殖してしまったりします。そうなってしまった場合、「あなたは責務を果たしていませんね」と飼い主に注意したところで、過剰繁殖の事実が消えてなくなるわけではありません。過剰繁殖の結果増えてしまった動物たちは、その多くがシェルターに入ることになってしまいます。シェルターが「飼い主の責務」という建前をひとまず脇に置き、低価格や出張手術などにより避妊去勢手術のハードルを下げることは、「シェルターに動物を入れない」という目的を鑑みると理にかなっています。
HQHVSN
もうひとつ、シェルターメディスンでよく出てくる言葉として“HQHVSN”があります。これは“High-Quality-High-Volume-Spay-Neuter”の略で、直訳すれば「高品質で大量の避妊去勢手術」という意味です。これはいわゆる「一斉手術」で、医療資源を集中させて集中的に避妊去勢手術を行うというものです。HQHVSNは医療資源を集中することによりコストを押さえながら多数の手術を実施できるという利点がありますが、それにとどまりません。
「イベント」としての効果
米国ではショッピングセンターなどの駐車場に移動式の手術室を設置し、「買い物の間にペットの避妊去勢手術ができます」といったキャンペーンが行われています。これは手術の利便性を高めるだけではなく、イベントによる広報効果も期待できます。
「一斉TNR」
野良猫のTNR(Trap-Neuter-Return)を実施する際に、少しずつ捕獲し手術後リターンするよりも、コロニーの猫を一斉捕獲し手術を行う、いわゆる「高強度」TNRの方が、野良猫の個体数を減らすためには有効であるといわれています。こうした「一斉TNR」を実施するためには、それに対応できる手術の体制、すなわちHQHVSNが必要になります。