シン・シェルターメディスン超入門(13)「保持」のための避妊去勢手術

飼い主が自分のペットを手放そうとしている理由が「増えすぎて困る」といった過剰繁殖によるものであれば、避妊去勢手術によって飼い主が飼養し続けることができるかもしれません。その結果、シェルターに収容すべき動物の数を減らすことができます。

 

一定数の引取りはやむなし

ペットが「増えすぎて困る」ということは、飼い主がペットの繁殖制限を怠った結果、過剰繁殖してしまっている状態ということです。ペットの繁殖制限は飼い主の責務です。繁殖制限について無知だったにせよ、確信的にせよ、それを怠って「増えすぎたから引取ってほしい」というのは、かなり虫のいい話です。「自分でどうにかしろ!」と怒鳴りつけて追い返したい気持ちはわかります。しかし理由はどうであれ、現にそこに存在する動物たちのことをまず考えなければなりません。

現実的な対応は「母親の避妊手術を実施することを前提に、子を引取る」ことです。もちろん子供も含めすべての動物の避妊去勢手術を実施し飼い続けることが理想ですが、なかなかそうはいかないことが多いです。そもそも繁殖制限を実施していない飼い主は、避妊去勢手術を実施する気がないか、その気があっても手術費用を出す気がないことが多いからです。

母親も含めすべての動物を引取るという手もありますが、私の経験上、飼い主の精神福祉を考え、もっとも思い入れが強い個体(すなわち母親)だけは残すことがベターであると考えます。

ここで注意すべきことは、このパターンで引き取るのは幼齢の動物がほとんどですから、感染症のリスクを考えると極力シェルターには入れたくありません。そのため里親(預かりボランティア)の活用や直接譲渡など、シェルターに入れないための方策を検討する必要があります。

 

手術をどこで行うか

ペットの避妊去勢手術は、かかりつけの動物病院で実施すべきであると私は考えています。もしかかりつけがなければ、この機会に動物病院との付き合いを始めるべきです。費用はそれなりにかかりますが、「母親を今後も飼っていくつもりなら、子供をすべて引取る代わりに母親の手術費用を出してほしい」とお願いすれば、よほどの生活困窮者でない限り応じてくれます。

どうしても手術費用が出せないというのであれば、市町村の補助制度を活用したり、避妊去勢手術に特化した動物病院(いわゆるスペイクリニック)を紹介することになります。たとえ少額であっても、飼い主の責任として何らかの金銭的負担をしてもらうことが重要であると私は考えています。それすら拒むようであれば、飼い主として不適格と考えられますので、全頭引取らざるをえません。

 

対応を誤ると恐ろしい結果が…

最近、「隣人が家の中に飼い猫を何匹も閉じ込めたまま引っ越してしまった」という相談がしばしばあります。相談があればレスキューできますからまだいい方で、たまたま空き家の中から猫の死体が発見されたという事例もあります。「ペットの繁殖制限を行わないのが悪い」と突き放してしまい、その後のフォローも怠ると、このような結果が待っているかもしれません。