シン・シェルターメディスン超入門(16)行動相談

飼い主が自分のペットを手放そうとしている理由が鳴き声など行動上の問題であるならば、その問題が軽減すれば、飼い主が飼養し続けることができるかもしれません。その結果、シェルターに収容すべき動物の数を減らすことができます。

 

行動相談についての考え方

ペットの行動上の問題については、基本的に専門家に任せるべきと私は考えています。行動上の問題といっても、そこに基礎疾患が潜んでいる可能性があるため、行動治療に対応してくれる獣医師に相談することが理想です。しかし特に地方には対応してもらえる獣医師が少ないため、訓練士を紹介することもあります。なお公的機関の場合、特定の獣医師や訓練士を紹介することははばかられるため、検索の仕方を教えて自分でネット検索で探してもらいます。

 

犬の行動上の問題

犬の行動相談で最も多いのが「無駄吠え」です。そして多いパターンは「飼い主不在の時に吠える」「夜中に吠える」といったもので、その結果近所から苦情が来て飼い続けることが難しいので引取ってほしいというわけです。しかしここで申し上げておきたいのは、犬は吠えることが正常であって、飼い主の管理不足によって生じる「人間にとって不都合な吠え声」が「無駄吠え」と呼ばれているにすぎないということです。

 

「飼い主不在の時に吠える」のは「分離不安」の可能性が高いです。分離不安にはさまざまな理由がありますが、飼い主が外出している間にずっと鳴き続け、飼い主が在宅しているときにはそうでもないという事例が多く、近所からの苦情で気付き相談に至ります。当座の対応として、飼い主がいない時間を少しずつ増やし慣れさせる、また飼い主が出かける際にはできるだけそっけなく家を出るようにするなどが考えられます。

 

「飼い犬が夜中に吠え、いくら注意しても直らない」という相談もよく受けます。これは「夜中に吠える」行動が、オペラント条件付けにより強化された結果と考えられます。これはどういうことかというと、たまたま犬が夜中に吠えたときに、飼い主は叱ったつもりで「○○ちゃん、ダメじゃないの」と声を掛けたら、犬は飼い主がかまってくれたと認識し、かまってほしいから夜中に吠えてしまうのです。夜中に吠えても放っておけば、そのうち諦めてやめる…はずです。

 

しかしそれらは伝聞の状況から推測しただけの話で、私は一般論を説明した後にできるだけ早く専門家に相談することをお勧めしています。しつこいようですが、痴呆や神経系の感染症など、他の病気が原因で行動上の問題が生じている場合もあるからです。専門家につなぐこともシェルターの重要な業務です。

 

猫の行動上の問題

猫の場合、「完全屋内飼育」「避妊去勢手術の実施」が実行されていれば、飼養継続が困難なほどの行動上の問題が生じることはそう多くないと考えられます。特にオス猫の行動上の問題の多くは繁殖行動に起因するため、去勢により軽減します。