シン・シェルターメディスン超入門(20)預かりボランティアの活用

ここまで、動物をいかにアニマルシェルターに入れないようにするかということについて述べてきましたが、どうしても引取らざるを得ない局面も出てきます。その際に、最後の砦となるのが預かりボランティア(英語ではFoster:里親と表現される)です。

 

預かりボランティアの利点

預かりボランティアに保護動物を託す利点は「シェルターに動物を入れなくても済む」こと、その1点に尽きます。そのことがどのような効果をもたらすか、もう一度まとめておきます。

 

感染症のリスクの軽減

シェルターにはさまざまな出自の動物が集まります。子犬や子猫はもちろんですが、成獣であっても混合ワクチンを接種していない個体は、シェルターに入ると感染症に罹患するリスクがあります。保護動物をボランティアに託し個別に管理することは、感染症予防の観点において有効です。

 

行動上の利点

動物をシェルターのケージに入れることなく家庭環境で過ごさせることにより、社会化や探索、そして種固有の正常な行動を行う機会を多く提供できます。

 

きめ細やかなケアが可能

特に健康や行動の問題を抱える動物にとって、静かでストレスの少ない環境でその動物専従のボランティアが一貫してケアを行うことは非常に好ましいといえます。

 

シェルターの収容能力の拡張

シェルターに収容されている動物の数を増やさないことにより、もともとシェルターに収容されている動物の福祉を担保することができます。

 

預かりボランティアの注意点

しかし預かりボランティアはいいことづくめというわけではありません。ボランティアを活用するには、注意点も頭に入れておく必要があります。

 

一定の人役は必要

たとえ保護動物をボランティアに託したとしても、その動物のケアについての責任はあくまでもそのシェルターにあります。けっしてボランティアに「丸投げ」してはなりません。当然ながら、シェルターにはボランティアをフォローするための担当者が必要です。またボランティアの資質を高めるための研修も定期的に行う必要があります。

 

リスクの拡散

保護動物を一般家庭に入れることは、感染症や咬傷事故などのリスクを拡散することになります。当然ですが、それらの責任はシェルターが負うことになります。

 

ライブリリースへの圧力

ボランティアという「外部の目」が入ることにより、シェルター運営のさらなる透明化が求められます。それ自体はよいことですが、シェルター運営上の意思決定、特にボランティアに託した個々の動物の処遇の決定が難しくなる可能性があります。