シェルターメディスンは「やむを得ずアニマルシェルターに入れた動物をできるだけ早く生きて出すための獣医療」という側面も持ちます。動物がシェルターに滞在する期間が長くなればなるほど、シェルターの収容能力を超える動物を抱えてしまうリスクや感染症、ストレス、そして安楽殺のリスクが増すからです。
「ライブリリース」
シェルターに収容された動物は動物福祉の観点から、できるだけ早く「生きて」出すことが求められます。またシェルター都合による動物の安楽殺や、収容中の死亡といった事態はできるだけ避けなければなりません(けがや病気で苦しんでいる動物の安楽殺は別です)。シェルターから動物を「生きて」出すことを「ライブリリース」といいます。そして収容された動物のうち、ライブリリースされた動物の割合を「ライブリリース率(LRR)」といいます(注)。LRRはシェルター事業を評価する際によく用いられる指標ですが、LRRは単独の数値として見るのではなく、必ず動物福祉の文脈で解釈する必要があります。
ライブリリースの方法には、大きく分けて「返還」「譲渡」「移送」「RTF」の4つがあります。
返還
「返還」とは、迷子のペットを元の飼い主に返すことです。
譲渡
シェルターに収容された飼い主不明の動物に一定のケアを行い、新しい飼い主に譲り渡すことを「譲渡」といいます。英語ではAdaption(養子縁組)と表現されます。なお所有権の移転を伴わず、動物を個人に預けることをFoster care(里親ケア)といいます。
移送
様々な理由により、他のシェルターやレスキューグループ(シェルターを持たない、里親主体の動物保護団体)などに動物を移送することがあります。
RTF
シェルターに収容された野良猫に避妊去勢手術を施し、元の場所に戻すことをReturn-to-Field(RTF)といいます。“Feral Freedom”や“Shelter-Neuter-Return(SNR)”も同じ意味です。
シェルターに動物を入れないことが基本
しかし、あくまでも「シェルターに動物を入れない」ことが基本であることを忘れてはなりません。ベンジャミン・フランクリンの“An Ounce of Prevention Is Worth a Pound of Cure”(百の治療より一の予防)という言葉は、シェルターメディスンにも当てはまります。
注:LRRにはその他の定義もあります。また「生存率(save rate)」という指標が用いられることもあります。