日本においてはアニマルシェルターが保護動物を新しい飼い主に譲り渡すことを、ざっくりと「譲渡」と呼んでいます。英語では“Rehoming”(住み替え)と表現されます。しかし米国においてはその動物の所有権に着目し、所有権の移転を伴うAdaption(養子縁組)と、所有権の移転を伴わないFoster(里親)が明確に区分されています。
ペットの所有権
ペットの所有権についての基本的な考え方は、日本も米国も同じです。民法上、ペットは飼い主等の所有物(動産)とみなされます。そして正当な法的手続きによらず、自動的に所有権が他者に移転することはありません。ただしもともと飼い主がいない動物については「無主物」とされ、所有する意思をもって保護した人が所有者となります。ここでは「所有する意思」が重要で、例えばTNRのために野良猫を捕獲したとしても、必ずしも捕獲者が所有者になるわけではありません。
しかし困ったことに、「飼い主不明」としてシェルターに入ってくる動物は、迷子札やマイクロチップなどにより所有者が明示されていない限り、「所有者がいるペット」なのか「所有者がいない無主物」なのか区別がつきません。
米国の場合
米国では、公営のシェルター(行政機関から委託を受けている「みなし公営」のシェルターを含む)が保護動物の所有権について一定の権限を持っています。つまり、シェルターが保護動物についての情報を公示しその期間が満了すれば、その動物の所有権はシェルターに移ります。民間のシェルターにはそのような権限はありませんから、公営のシェルターや管轄の動物管理機関に公示を依頼することになります。こうしてシェルターが所有権を得た動物を、所有権ごと新しい飼い主に譲り渡すのがAdaption(養子縁組)、所有権の移転を伴わずボランティアに預けるのがFoster(里親)というわけです。
保護動物のケア
米国においては多くの州法で、所有者不明動物の公示期間中(つまり、シェルターがまだ所有権を取得していない期間)であっても、シェルターは「飼い主の責務」としての「基本的なケア」を実施することとされています。快適な住居環境で適切な給餌や給水を行うことはもちろん、基本的な健康管理や病気・けがの応急処置などもそこに含まれます。またワクチン接種や駆虫はペットと保護動物とでは接種のタイミングなどの考え方が異なりますが、シェルターの裁量で実施してよいとされています。ただし避妊去勢手術などの「選択的手術」(実施時期を選ぶことができる、急を要しない手術)は、シェルターが正式に所有権を取得するまでは実施できません。
米国は訴訟社会ですから、特に所有権のような権利問題については非常にナーバスです。それに対して、日本においてはそのあたりがやや曖昧になっています。