飼い主不明でアニマルシェルターに収容された動物の所有権の移転について、米国では前述のとおり公営(「みなし」を含む)のアニマルシェルターが一定の権限を持っていますが、日本においてはそのような規定はなく、動物の所有権が曖昧なまま譲渡が行われている実態があります。
飼い主不明の動物の所有権
民法上ペットは飼い主等の所有物(動産)とみなされ、法的手続を経ずに自動的に所有権が他者に移転することはありません。ただしもともと飼い主がいない「野良」の動物の場合、所有の意思をもって保護した人が所有者になります。しかし多くの場合、それがどちらであるかは、動物の見た目ではわかりません。
所有権取得の手続き
日本の場合、保護動物の所有権を得るには「遺失物法」に基づく手続きが必要です。動物を保護した人(拾得者)が警察署に届け出て、警察が拾得物として告示し、所有者が3か月間名乗り出なければ、拾得者が所有者になります(拾得者が所有権を放棄した場合、都道府県が所有者になります)。告示後所有者が名乗り出ず2週間経過した時点で、警察署はその動物を売却等「処分」(地元自治体に引き渡すことが多いと思います)することが可能です。
公示期間
では「動物愛護法」の規定に基づき、各自治体の動物管理機関に収容された動物はどうでしょうか。自治体に収容された動物は、収容の旨を公示したうえで一定期間保管されます。生後3か月齢以上の犬については「狂犬病予防法」の規定により2日の公示期間+1日の保管が義務づけられていますが、子犬や他の動物については各自治体が独自に定めています。公示期間が満了すればその動物は「処分」(譲渡や殺処分など)されます。公示期間は長くても1週間程度のことが多く、一部の法律家は「遺失物法の規定に合わせて、自治体の保護動物の公示期間を2週間に統一すべき」と主張しています。
しかしこの公示期間が満了することをもって、自治体が自動的に所有権を取得するわけではありません。公示期間はあくまでも「処分までの猶予期間」であることに注意が必要です。
曖昧な所有権
つまり自治体は、所有権が不明瞭なまま「公示期間満了」をもってその動物を「処分」しています。現在は殺処分をできるだけ減らすという方針に基づき多くの動物が「譲渡」されていますが、その実態は所有権の問題を棚上げにしたままの「里親」であることに注意が必要です。その動物が所有者のいない「野良」動物であれば問題ありませんが、迷子のペットであれば、(法的な)所有者はあくまでも元の飼い主であり続けます。ですので、たとえ自治体が保護動物を第三者に「譲渡」した後であっても、その動物の元の飼い主が名乗り出れば、返還しなければなりません。通常、自治体が動物を「譲渡」する際にはその点について説明し、元の飼い主が名乗り出た場合は「民事不介入」の観点から、当事者間の話し合いにより解決するようお願いしていますが、話し合いがこじれ自治体の担当者が巻き込まれることもしばしばあります(私も経験があります)。