シン・シェルターメディスン超入門(25)「適正譲渡」と「戦略的譲渡」

適正譲渡の要件

米国の一部のアニマルシェルターにおいては、動物の譲渡についての考え方が「契約譲渡」(ちゃんとした動物を間違いのない人物に譲渡する)から“Open Adaption”(その動物の飼い主としてふさわしい人物に譲渡する)にシフトしつつありますが、もちろん「何でもあり」というわけにはいきません。2003年に、米国における動物譲渡の専門家が集まり開催された“Adaption ForumⅡ” では、適正譲渡の4原則が示されました。

 

(1)動物は避妊または去勢されなければならない。

(2)動物虐待または児童虐待の前歴のある者に、動物を譲渡してはならない。

(3)飲酒している、または飲酒が疑われる者に、動物を譲渡してはならない。

(4)その動物を食用に供しようとする者に、動物を譲渡してはならない。

 

また譲渡先の評価基準についても、5項目のガイドラインが示されました。

 

(1)それぞれの動物や家族とマッチしていること。 

(2)ペットは適切な獣医療ケアを受けられること。

(3)ペットの社会的(social)、行動的(behavioral)、および伴侶的(companionship)ニーズが満たされること。

(4)ペットが住みやすい環境(適切な食物、水、隠れ家、運動を含む)を提供できること。

(5)ペットは尊重(respected)され、大切にされる(valued)こと。

 

戦略的譲渡

マッチングにより保護動物の新しい飼い主を決定するやり方はある意味「賭け」ですが、「優良な」飼い主を育てるチャンスでもあります。「契約譲渡」では、シェルターから動物を譲り受けたいと希望する人の多くが、厳格な身元調査により候補者からはじかれるからです。

Open Adaptionにより譲渡のすそ野を広げることは、単に譲渡先を増やすことに留まりません。新しい飼い主は譲渡後のフォローアップにより、飼い主として成長することができます。そして地元住民への譲渡を積極的に行い、地域における「優良な」飼い主の割合を増やすことによって、地域のペットケア能力を向上させることができます。それは結果的にシェルターに入る動物の数を減らすことにつながります。譲渡を、単にライブリリースを増やすため(=殺処分を回避するため)の緊急避難的措置として位置づけるのではなく、シェルターに動物を入れることを回避するためのツールとしても活用しようとする考え方は、しばしば「戦略的譲渡」と表現されます。

そのためには「地産地消」ではありませんが、地域住民への譲渡にこだわるべきです。その理由は2つあります。ひとつは地元住民に譲渡しなければ譲渡後のフォローアップが困難なこと、もうひとつは「戦略的譲渡」が地域のペットケア能力の向上を狙っているからです。「戦略的譲渡」のためには「適正譲渡」を前提としながら、「マッチング」と「フォローアップ」を確実に実施することが不可欠です。