シン・シェルターメディスン超入門(26)「便利な」譲渡はイケナイのか?

アニマルシェルターが「マッチング」と「フォローアップ」を主体にしたOpen Adaptionにより動物の譲渡を行うことは、譲渡のすそ野を広げ、地域における模範的な飼い主を増やすことにつながると前回述べました。そしてOpen Adaptionにはもうひとつ重要な要素があります。それは「利便性」です。ごく少数の「選ばれし者たち」に細々と譲渡するのであれば、町はずれのシェルターでもよいのかもしれませんが、出会いの場を増やすことを考えると、少なくとも譲渡のための拠点は街なかにあったほうがよいでしょうし、営業時間も仕事帰りに立ち寄れるような時間帯に設定するほうがよいかもしれません。また休日に公園やショッピングセンターなどで「譲渡会」を開催することも、出会いの場の提供には効果的です。

 

「便利な」譲渡は「安易な」遺棄を招く?

しかしかつて、「便利な譲渡は安易な飼育態度を招き、安易な遺棄につながるのではないか」という言説がありました。しかしNeidhartとBoyd(2002)は、「アニマルシェルターにおける譲渡」「シェルター外(サテライト施設など)における譲渡」、そして「大規模譲渡会における譲渡」におけるその後の飼育継続率を比較し、ほとんど差がないことを報告しています。つまり、譲渡の利便性とその後の飼育継続率には相関関係がないというわけです。それはある意味当たり前の話で、親が決めた人と見合い結婚しようが、相席屋やマッチングアプリで知り合った人と結婚しようが、結婚生活が長続きするかどうかは本人たち次第というのと同じです。

 

「有料」か「無料」か

そしてもうひとつ、「無料の譲渡ではペットに対する愛着や責任感が生まれにくい」という言説もありました。WeissとGramann(2009)は、無償で譲渡された猫と手数料を徴収し譲渡した猫の間で、飼い主の愛着や責任感に差があるかどうかを調査し、その間に差がないという結論に至りました。私も自治体の無償譲渡に携わってきましたが、無料だからといって愛着が生まれないというのは少し違うと思います。しかしそれはあくまでも「手数料」の話です。税金や寄付金などで経費の全額を賄うことができるようなシェルターでなければ、譲渡までの間のケアに要した費用を新しい飼い主に負担してもらわざるを得ない場合もあります。

本来であればワクチン接種や駆虫、避妊去勢手術は飼い主の責務ですから、その費用を新しい飼い主に負担していただくことは理にかなっています。つまりその費用をどのタイミングで負担するかの違いであって、飼い主が負担すべき費用であることに変わりはないからです。

また、通常ワクチン接種や駆虫、避妊去勢手術を外部の動物病院に依頼すると数万円の費用がかかります。クリニック併設のシェルターであれば実費だけで済みますが、それでも無料ではありません。それをシェルターや保護団体の「持ち出し」にしてしまうと、事業の継続性の点からも問題が出てきます。