シン・シェルターメディスン超入門(27)「移送」のリスク

保護動物の譲渡促進などを目的として、動物保護団体や個人ボランティアが他団体等に動物を移動させる事業を“Relocation”(本ブログでは「移送」と訳します)といいます。そして移送に際して実際に動物を移動させることを“Animal Transport”(本ブログでは「輸送」と訳します)といいます。米国においては州や国をまたぐような移送が実施されていますが、移送にはリスクもあるため、そこには綿密なリスク管理が必要です。

 

移送の背景

そもそも移送は「ブリードレスキュー」から始まりました。「ブリードレスキュー」とは、特に犬の特定品種に特化したレスキューグループ(シェルターを持たない、個人ボランティア主体の動物保護団体)のことです。ブリードレスキューがシェルターから特定品種の動物を入手したり、譲渡を円滑に進めるためにブリードレスキュー同士で動物を融通しあうといった際に移送が行われていたわけです。その後比較的都市部に位置し、譲渡先がある程度確保できているようなシェルターが、地方のシェルターから譲渡できそうな動物を受入れるといったことを始めました。米国では空輸により国外から動物を受入れるような移送プログラムも実施されています。

 

移送のリスク

しかし保護動物の移送には2つのリスクがあります。輸送時のストレスと感染症の発生です。

 

輸送時のストレス

保護地点からシェルターへ、またはシェルターから譲渡施設へといった短時間の輸送ならともかく、狭いケージに入れて長距離移動することは動物に負担を与えます。そのためASV(シェルター獣医師会)のガイドラインには、動物の輸送時間や輸送方法などについて細かく規定されています。

 

感染症発生のリスク

動物の輸送に伴う感染症のリスクについては、個体レベルはもちろん、地域レベルまで考慮する必要があります。

 

個体レベル:輸送のストレスにより、すでに感染していたが発症に至っていなかった感染症が発症するリスクがあります。

 

集団レベル:輸送の際に出自の異なる複数の個体を同じ車両に入れると、輸送中に感染症が蔓延するおそれがあります。

 

地域レベル:動物を別の地域に輸送することにより、局地的に発生していた感染症が他の地域に広まるおそれがあります。例えば日本では犬のバベシア症やジアルジア症などの蔓延が懸念されています。

 

これらのリスクを軽減するため、ASVのガイドラインではシェルターの通常の感染症対策(ワクチン接種など)に加え、輸送元および輸送先における動物の健康診断についての指針を示しています。また米国においては、州をまたいで犬や猫を移動させる際には、健康診断書と狂犬病ワクチン接種証明書が必要な場合が多いです。