シン・シェルターメディスン超入門(28)「移送」と「遠距離譲渡」

移送は最終手段

「移送」とは譲渡先の確保を目的に、動物保護団体や個人ボランティア同士で保護動物の移動を行うことです。保護動物は移送先で譲渡やフォローアップが行われることになります。

前述のとおり、保護動物の譲渡は地元住民を対象にすることが望ましいのですが、そうはいかない場合もあります。例えば地方で大規模な多頭飼育崩壊事例が起きたような場合、レスキューした動物をすべて地元で譲渡することは困難です。そういった際には他地域のシェルターに動物を移送せざるを得ません。当然ですが、移送先はできるだけ近隣地区が望ましいといえます。また移送先で譲渡できなかった動物を移送元に戻す、いわゆる「出戻り」は、動物の負担を考えると避けるべきですので、動物を受入れる際にはかなりの確率で譲渡できる目途が立っている必要があります。そして、受入れ先のシェルターの収容能力も考慮する必要があります。

また前回も述べたように、移送にはさまざまなリスクがあります。そのため、移送はあくまでもライブリリース(シェルターから動物を「生きて」出す)のための最終手段として用いるべきで、濫用すべきではないと私は考えています。

 

「移送」と「遠距離譲渡」は何が違うのか

日本においては、保護動物を主に地方から都市部の個人に譲渡する「遠距離譲渡」が普通に行われています。もちろん自治体は遠方への輸送サービスを行っていませんから、自治体から動物を譲り受けた地元のボランティアが、遠方に輸送する形になります。その際には多くの場合、動物は貨物扱いで空輸されます。これは一見「移送」に似ていますが、ボランティアから個人への輸送になりますので少し意味合いが異なります。遠距離譲渡も適切に行われていればよいのですが、無秩序な遠距離譲渡による問題も発生しています。

 

ミスマッチの問題

遠距離譲渡には、マッチングが十分に行われない懸念があります。例えば犬を初めて飼うような人に野犬が譲渡されるなどということが起こりえます。実際に都市部で野犬を譲り受けた人が逸走させてしまうという事例はしばしばあります。しかもその犬が避妊去勢手術未実施であれば、野外で繁殖してしまうことになります。また遠距離譲渡の場合、フォローアップが困難です。つまり譲渡先で問題が起こっても、対応が困難となります。

 

感染症蔓延の問題

また日本においては、県境をまたいで動物を移動させる際においても、動物の健康診断が義務付けられているわけではありません。特に無秩序な遠距離譲渡においては、感染症が蔓延するリスクは極めて高いといえます。例えば、関東ではあまり見られなかった犬のバベシア症が近年増加しているのは、西日本から遠距離譲渡された野犬が持ち込んだのではないかといわれています。

 

つまり遠距離譲渡もライブリリースのための最終手段という位置づけで、やむを得ぬ場合は適正譲渡を前提として「マッチング」と「フォローアップ」を確実に実施することが求められます。