アニマルシェルターから動物を「生きて」出す(ライブリリース)方法として、「返還」「譲渡」「移送」「RTF」について述べてきましたが、必ずしも動物がシェルターから生きて出ることができるとは限りません。シェルターで動物が死亡することには、「安楽殺」「収容中の死亡」の2つのパターンがあります。
安楽殺(euthanasia)
米国においてシェルターの収容動物の致死処分は安楽殺によることとされていて、その実施方法についてはAVMA(米国獣医師会)のガイドラインに基づくこととされています。そのため、シェルターメディスンでは動物の致死処分を“euthanasia”(安楽殺)と表現します。日本においても収容動物の致死処分は「一応」安楽殺によるとされていますが、行政用語としては「殺処分」という言葉が用いられます。安楽殺は「収容動物の福祉が担保されず、改善も見込めない場合」に実施されます。
安楽殺の中には「獣医療としての安楽殺」と「シェルター都合による安楽殺」の両方が含まれ、前者は「やむを得ぬ安楽殺」、後者は「防ぐことができる安楽殺」といえます。「やむを得ぬ安楽殺」を確実に実施し、「防ぐことができる安楽殺」をゼロにしていくことこそが、シェルターメディスンが目指す方向性といえます。両者を混同して「すべてをゼロにする」などと言い始めると話がややこしくなってきます。
収容中の死亡
シェルターに収容されている動物がそのまま死亡することもあります。動物が収容された時点で瀕死の状態でそのまま息を引き取ることもありますし、収容時点で罹患していた病状が進行して亡くなることもあります。あってはならないことですが、シェルターで悪性の伝染病に感染し死亡することもあります。
よくあるのが、けがや病気で持ち込まれた動物の処置を急ぐあまり、ストレスを与えて死亡させてしまうパターンです。重度の出血など生命にかかわるような状態であれば緊急処置が必要ですが、そうでなければ落ち着くまで手を出さないのが無難です。また幼い子猫の場合、前兆なく容体が急変しそのまま死亡することがあります。これはしばしば「進行性衰弱症候群」と呼ばれますが、多くの場合原因は不明です。
絶対に避けなければならないのは、目の前で動物が苦しんでいて、回復の見込みがないと判断されたにもかかわらず、必要な安楽殺を行わずにただ死を待つことです。もちろんその判断は難しいのですが、必要な安楽殺を避けることにより動物に不必要な苦痛を与えてはなりません。私個人の意見として、そういう場合においても、緩和ケアにより動物の苦痛を軽減し看取るべきであると考えますが、シェルターの収容能力を考えると現実的ではないでしょう。