シン・シェルターメディスン超入門(31)安楽殺についての考え方

シェルターメディスンは「安易な安楽殺に頼ることなく、アニマルシェルターに収容された動物の福祉を担保するための獣医療」であると私は考えています。しかし必要な安楽殺は実施すべきとも考えています。それはどういうことでしょうか。

 

安楽殺についての考え方

シェルターが収容動物の安楽殺を検討する基準は意外にシンプルです。それは「収容動物の福祉が担保されておらず、改善も見込めないと判断された場合」です。「動物を苦しませるくらいなら、いっそのこと楽に死なせてやろう」ということです。具体的には

 

(1) 個体の問題…けがや病気で苦しんでいる動物の苦痛を除去する手段が致死処分しかない場合、安楽殺が検討されます。また動物が難治性の疾患に罹患し、回復の見込みがない場合にも、安楽殺が検討されます。

 

(2) 個体群の問題…シェルター内で悪性感染症(犬パルボウイルス感染症など)が集団発生した場合、シェルター内や地域の他の個体群を守るためにdepopulation(一斉安楽殺)が実施されることがあります。

 

(3) 公衆衛生上の問題…悪性の人獣共通感染症に罹患していたり、攻撃性が強く人や他の動物に危害を加える可能性が高い動物には、安楽殺が検討されます。これはどちらかといえば人間側の都合になりますが、人間の健康を守ることもまた獣医療の重要な分野です。

 

(4) 管理上の問題…シェルターが収容能力を超えた動物を受け入れてしまったり、スタッフ不足により十分な動物のケアが実施できないといった場合、安楽殺が検討されます。これは突発的な事故でそうなってしまった場合に限らず、慢性的に収容能力不足のシェルターが定期的に収容動物を「間引き」するようなことも含まれます。また譲渡がうまくいかず長期滞在が予想される動物の場合、動物福祉の観点から安楽殺が検討されることがあります。

 

日本の場合

日本の環境省が発表している「動物愛護管理行政事務提要」における「殺処分数」の分類※に当てはめると、(1)~(3)は「①譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)」、(4)は「② ①以外の処分(譲渡先の確保や適切な飼養管理が困難)」に当てはまります。前者はやむを得ない処置として実施される、獣医療としての安楽殺です。もちろん、その前提となる疾病が発生・悪化しないようなケアが前提であることは言うまでもありません。そして問題となるのが後者で、このパターンを限りなくゼロにしようとする獣医療こそがシェルターメディスンなのです。

 

※https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r02/bunrui.pdf

ただしこの①②の分類は自治体の自己申告ですから、本当はどうであるかは誰にもわかりません。例えば本当は②なのに、何かと理由を付けて①に計上しているであろうことは容易に想像できます。何せ②がゼロであれば、「殺処分ゼロ自治体」を名乗ることができるわけですから。