シン・シェルターメディスン超入門(33)安楽殺を減らすには

ここまでアニマルシェルターにおける動物の安楽殺について述べてきましたが、ではどうすれば安楽殺を減らすことができるのでしょうか。

 

必要な安楽殺は実施すべき

まず最初に確認しておきたいことは、前述のとおり、安楽殺には「やむを得ない獣医療としての安楽殺」と「防ぐことができるシェルター都合の安楽殺」の2種類があるということです。当然ながらシェルターは後者の安楽殺をゼロにすることを目指すべきで、動物の福祉を担保しながらそれを実現するための獣医療がシェルターメディスンといえます。しかし前者の安楽殺を躊躇せずに実施すべきというのも、シェルターメディスンの考え方です。

 

対症療法

緊急避難的に目の前の動物の安楽殺を回避するためには「譲渡」か「移送」しかありません。しかし譲渡先は無限ではありませんし、「移送」も移送先での譲渡が前提ですから同じことがいえます。譲渡できなかった動物を終生飼養するためのシェルター(しばしば「サンクチュアリ」と表現される)もありますが、動物福祉を担保しながら動物を飼養するにはそれなりのリソースが必要です。米国には広大な土地に潤沢な資金が投入された立派な「サンクチュアリ」も存在しますが、その一方手に負えない数の動物を受入れてしまい多頭飼育崩壊を起こしている自称「サンクチュアリ」も後を絶ちません。安楽殺を避けるという名目で動物福祉に反する行為を行っているのですから、本当に何をやっているのかわからない状態です。

なお野良猫の場合には、RTF(避妊去勢手術を施しリターンする)という手もあります。

しかしこれを続けていても、根本的な対策がなければ永遠に終わらないことを頭に入れておく必要があります。

 

根本的な対策

シェルターにおける動物の安楽殺を回避するための根本的な対策は「シェルターに入る動物の数を減らす」ことに尽きます。そのための具体的方策として「避妊去勢手術の普及」「個体識別措置の普及」「飼い主教育」があげられ、これらはいずれもシェルターメディスンの重要な分野として位置づけられていることは前述のとおりです。

 

「ノーキル」だけでは何も解決しない

最も避けるべきは、代替策の検討なしに安楽殺の実施のみを止めてしまうことです。安楽殺の回避はシェルターメディスンの重要なテーマのひとつですが、そこだけにフォーカスしてしまうと動物福祉との整合性が崩れてしまいます。「動物を生き地獄に置くくらいなら、いっそのこと安楽殺してあげたほうがよい」というのが動物福祉(正確に言うと西洋的価値観に基づく「アニマルウェルフェア」ですが)の考え方です。そしていかにして「生き地獄」を回避するかという知恵を結集させようというのがシェルターメディスンという獣医療であるといえます。