シン・シェルターメディスン超入門(37)ライブリリース率の注意点

アニマルシェルターにおける「成功」の指標としてよく用いられる「ライブリリース率(live release rate:LRR)」、すなわち「生きて」シェルターを出た動物の割合ですが、この数値を扱うにあたって、いくつか注意点があります。

 

LRRの使い方

LRRはシェルターの収容動物のうちライブリリース(譲渡や返還などにより、動物をシェルターから「生きて」出すこと)に至った動物の割合として計算されます。そしてその分母を「すべての結果数」(つまり、譲渡や返還、安楽殺など何らかの「結果」を迎えた動物数)とする「アシロマLRR」と、「すべての受入数」とする「単純LRR」の2種類があることは前回述べたとおりです。そのどちらを用いるかは、シェルターの問題意識によって変わってきます。またシェルターの問題意識によっては、例えば「収容中死亡」を統計から除外するといった、カスタマイズしたLRRを用いることもできます。LRRは各シェルターの進捗状況をモニタリングするための指標であって他のシェルターと比較するものではないですから、これでいいわけです。

 

LRRを比較することはナンセンス

シェルター事業の進捗は、地域やシェルターの個別事情によって異なります。もちろん個別の動物についてのライブリリースの判断も、シェルターによって異なります。全体的な傾向を把握するために国や地域のデータを参照するのはよいですが、個別のシェルター同士でLRRを比較し一喜一憂することはナンセンスであるといえます。

 

LRRはひとつの「数値」である

LRRはシェルター事業の結果から導き出されたひとつの数値であり、それ以上でもそれ以下でもありません。ましてやLRRの数値をもって、そのシェルターの「救命努力」を評価することはできません。

 

「安楽殺数」ではなく「ライブリリース数」に着目する意味

特に日本においては、動物愛護管理統計でまず最初に目につくのは「殺処分数」で、これが主なトピックとして語られます。受入数が増えれば殺処分数も増えるので、比較を容易にする意味で「殺処分率」を計算したりもします。しかしシェルターメディスンにおいては、ライブリリース数を指標にします。つまり「殺さないこと」よりも「ライブリリースする」ことに着目しているわけです。

「殺さないこと」と「ライブリリースする」ことは同じだと思われるかもしれませんが、全然違います。ライブリリースには「飼い主への返還」「譲渡」そして「(譲渡を前提とした)移送」などが含まれますが、いずれもただ単に「殺さない」だけではなく、動物福祉に配慮した「結果」といえます。シェルターの方向性として「殺さないこと」ではなく「ライブリリースする」ことに注力することは、動物福祉の考え方からすれば当然といえます。