シン・シェルターメディスン超入門(38)返還率

アニマルシェルターの統計指標としてよく用いられるのが、迷子のペットを飼い主に返還できた割合、いわゆる「返還率」です。

 

返還率の算出方法

「本当の」返還率を計算するには、「所有者不明」としてシェルターが受け入れたペットのうち、飼い主に返還することができた動物の割合を計算する必要があります。しかしシェルターに入ってくる動物が飼い主がいるペットか否かは、その見た目ではわかりません。ですので、実務的に返還率を計算する際には、多少不正確なことには目をつぶり、「所有者不明」として受入れた動物のうち、飼い主に返還できたペットの割合としてざっくりと計算します。

 

例えば令和3年度に日本国内で「所有者不明」として受け入れた動物数は46,441頭、返還数は8,626頭※ですから、返還率は8,626/46,441=0.186、つまり18.6%です。母数の中にはそもそも飼い主がいない「野良」動物が含まれますから、「真の」返還率はもっと高値であると考えられます。

 

返還率の傾向

返還率は必ず「動物種」「年齢」ごとに計算する必要があります。その理由を言葉で示すよりもデータで見ていただいた方が早いと思うので、令和3年度の日本のデータ※でお示しします。

 

犬(成熟個体)引取り数(所有者不明):16,572、返還数:8,383→返還率:50.6%

犬(幼齢個体)引取り数(所有者不明):4,666、返還数:19→返還率:0.4%

猫(成熟個体)引取り数(所有者不明):4,511、返還数:193→返還率:4.3%

猫(幼齢個体)引取り数(所有者不明):20,692、返還数:31→返還率:0.1%

 

成犬以外の返還率は極めて低いことが一目瞭然です。特に子犬や子猫はほぼ返還されていないといってよいでしょう。この傾向は日本も米国も同じです。その理由として次のことが考えられます。

 

・成犬の場合、収容数に占める「迷子のペット」の割合が多い。「所有者不明」として引取られる成猫の多くが、野外繁殖し成長した個体であると考えられる。

・成犬は「狂犬病予防法」の規定で市町村への登録が義務付けられているため、猫よりも飼い主が判明しやすい。

・犬がいなくなった場合、飼い主は比較的本気で探すが、猫は屋内飼育の純血種でもない限り本気で探さない傾向がある。特に外飼いの猫がいなくなっても、飼い主は「そのうち帰ってくる」と悠長に構えていることが多い。

・子犬や子猫が自らの意志で逸走するとは考えにくいため、遺棄されたか野外で繁殖したものである可能性が高い。

 

※ ソースは「令和4年度動物愛護管理行政事務提要」(令和3年度集計分)https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html