シン・シェルターメディスン超入門(39)譲渡率

受入れた動物のうち、譲渡に至った動物の割合を示す「譲渡率」も、アニマルシェルターの統計指標としてよく用いられます。

 

「真の」譲渡率

譲渡率を正確に計算しようとするならば、譲渡対象として公開された動物のうち、譲渡に至った動物の割合というのが妥当でしょう。しかしその値は限りなく100%に近いでしょうから(そうでなければシェルター運営上困る)、地域住民向けの実績アピールには有効かもしれませんが、シェルター事業の評価指標としてはあまり面白くありません。

 

譲渡率の計算法

譲渡率をシェルター事業の評価指標として考えた場合、保護動物のうち譲渡に至った動物の割合を譲渡率とするのが一般的です。LRR(ライブリリース率)と同様、分母を「すべての結果数」とする計算法と「すべての受入数」とする計算法の2種類があります。

 

結果数ベースの譲渡率

保護動物のすべての結果(日本では「処分」といいます:返還、譲渡、安楽殺など)のうち、譲渡数が占める割合を譲渡数とする考え方です。分母の「結果」のうち、何を含めて何を含めないかは、各シェルターの考え方によります(例えば「返還」は除外してもよいでしょう)。当然ですが、分母から除外する項目が多ければ多いほど、見た目の譲渡率は上昇します。またこの計算法では、処分保留数(譲渡待ちや長期ケアなどによりシェルターに滞在している動物の数)は考慮されません。そのため、処分保留数がいくら増えても譲渡率は下がりません。

 

受入れ数ベースの譲渡率

すべての動物の受入れ数のうち、譲渡数が占める割合を譲渡数とする考え方です。この計算法では処分保留数が考慮されるため、見た目の譲渡率はやや低めになります。その一方、受入数や処分保留数を減らすことにより値が上昇するため、シェルター事業の評価指標としてはこちらの方がよいかもしれません。

 

譲渡率の使い方

LRRと同様、譲渡率をシェルター間で比較することは無意味とは言いませんが、あまり意味はありません。シェルターの譲渡事業の効果を検証するためのツールとして、各シェルターが譲渡率を意識することにこそ意義があります。譲渡率の上昇はLRRの上昇に直結するからです。また譲渡率は地域によって異なる(例えば都市部と農村部)といわれているため、その地域のシェルターの譲渡率を合算して地域全体の傾向として把握することは有用です。このデータを基に譲渡会や啓発イベントを検討したり、動物種別の譲渡戦略を練ったりできます。場合によっては他地域への保護動物の移送事業も検討すべきかもしれません。