シン・シェルターメディスン超入門(42)各種統計の読み方

前回まで、「令和4年度動物愛護管理行政事務提要」(令和3年度集計分)(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html)を基に、日本における「LRR(ライブリリース率)」「返還率」そして「譲渡率」を計算してきました。ここでその数値をおさらいしておきます。ただしここでは、LRRは「アシロマLRR」、譲渡率は返還数を除外した「修正譲渡率」を採用します。

 

成犬:LRR→88.6%、返還率→50.6%、譲渡率80.0%

子犬:LRR→88.4%、返還率→0.4%、譲渡率88.4%

成猫:LRR→63.8%、返還率→4.3%、譲渡率63.2%

子猫:LRR→67.7%、返還率→0.1%、譲渡率67.6%

 

ここからわかることは、

・成犬以外の返還率は極めて低い

・犬よりも猫の方がLRR、譲渡率ともに総じて低い

・子犬は返還率が低いのにLRRが高い

ということです。返還率については以前考察しましたので、ここでは譲渡率について考えてみたいと思います。犬よりも猫の譲渡率が低い理由について、ここでは「入手経路の違い」と「所有者不明猫の引取り拒否」の2点で考えてみたいと思います。

 

犬と猫の入手経路の違い

犬と猫の譲渡率の違いを説明するにあたり、まず考えられるのが「入手経路の違い」です。各種ペット統計によると、犬の主な入手経路は「購入」、猫の主な入手経路は「保護、または譲渡」であるといいます。わかりやすく言うと、犬はお金を出して買わなければならないが、猫はタダもしくは安価で入手できるということです。犬を飼おうとしている人にとって、譲渡は犬を安価に手に入れる貴重なチャンスです。特に子犬を安価に入手できる機会は限られていますから、子犬の譲渡率がとびぬけて高いことは、そのことを端的に示しています。その一方、猫を飼おうとしている人にとって、譲渡は安価な入手経路のひとつの選択肢にすぎないわけです。

 

所有者不明猫の引取り拒否

多くの自治体は動物愛護法の引取り拒否要件を盾に、所有者不明猫の引取りを拒否しています。しかし自治体は原則として「引取らなければならない」のであって、また要件を満たせば所有者不明猫の引取りを拒否「できる」のであって、拒否「しなければならない」わけではありません。そこを取り違えている自治体が多いのです。それはともかく自治体が野良猫を引取らない以上、野良猫の保護は必然的に民間に委ねられます。つまり野良猫の保護や譲渡が民間ベースで行われていることにより、自治体による猫の譲渡の相対的シェアが低くなっているものと推測されます。