シン・シェルターメディスン超入門(43)「処分保留数」とは

前回まで、「令和4年度動物愛護管理行政事務提要」(令和3年度集計分)(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html)を基に、日本における「LRR(ライブリリース率)」「返還率」そして「譲渡率」を計算してきました。しかしそこで私は断りなく、LRRは「アシロマLRR」、譲渡率は「修正譲渡率」を採用しました。どちらも「処分保留数」を考慮していない「結果(処分)数」ベースの計算方法です。私がアニマルシェルターの事業統計として、「処分保留数」を考慮した「収容数」ベースの計算方法が望ましいと述べていたにもかかわらず、です。

 

処分保留数とは

ここで「処分保留数」についておさらいしておきましょう。通常シェルターの統計は月間や四半期、年間など一定期間を区切って集計されます。そういった、いわゆるデータの「締め」の時点で結果が確定しないままシェルターに滞在している動物の数を、ここでは「処分保留数」と呼んでいます。

 

処分保留の原因

シェルターはさまざまな事情の動物を受入れますから、必ずしも「オールイン・オールアウト」というわけにはいきません。集計する「期」をまたいでシェルターに動物が滞在する要因として、次のことが考えられます。

 

・受入れ直後で検疫中の動物

・飼い主が名乗り出るまでの、法的な公示期間

・避妊去勢手術やワクチン接種など、譲渡に向けてのケアの待機中の動物

・病気やけが、行動上の問題によって長期ケア中の動物

・譲渡対象であるが、まだ譲渡先が決まっていない動物

・譲渡適性の判定、または安楽殺対象であるか否かの判定中の動物

・安楽殺対象であるが、安楽殺を保留している動物

 

このように処分保留そのものは必ずしも悪いこととは言えないのですが、下に行くほど怪しくなってきます。そして問題となるのが、いちばん下のパターンです。とりあえず処分を保留したまま、シェルターに長期間滞在する動物が増えてしまうことは、動物福祉上問題があります。

 

「収容数」ベースの集計が望ましい理由

LRRや譲渡率を「結果数」ベースで計算すると、処分保留数が反映されません。例えば収容数が100頭でライブリリース数が10頭、処分保留数が90頭の多頭飼育崩壊寸前のシェルターであっても、「結果数」ベースでLRRを計算すると100%です。これを「収容数」ベースで計算すると、LRRは10%になります。どちらの数値がこのシェルターの実態を的確に反映しているかは一目瞭然です。

 

日本の統計の問題点

日本の環境省が公開している「動物愛護管理行政事務提要」は各自治体の詳細なデータを網羅した良質のデータベースなのですが、残念ながら処分保留数の記載がありません。そのため「収容数」ベースのLRRや譲渡率のカスタマイズが難しいのです。処分保留数も掲載していただくと非常に助かるのですが、公開したくない自治体もあるかもしれませんね。