前回紹介した自治体Xは、子猫のLRR(ライブリリース率)を改善するための施策として「ミルクボランティア制度の導入」を検討しています。まあ間違いとは言い切れないのですが、「そこじゃない感」が否めません。本当はそういう姑息な対策ではなく、殺処分されるような子猫が生まれないようにすることが、職員の人役を含め結果的には公費負担の節減につながると私は考えています。
犬や猫の避妊去勢手術の普及は、シェルターメディスンの重要なトピックのひとつです。それはシェルターに入ってくる犬や猫の数を減らすことに直結するからです。シェルター事業として避妊去勢手術を実施したり、シェルターが避妊去勢手術の補助事業を行うことは、まさに理にかなっているわけです。
避妊去勢プログラム
避妊去勢プログラム(Spay-Neuter Program)とは、シェルターに入る犬や猫の数を減らすために、低所得者のペットや野良猫の避妊去勢手術を安価に実施する事業の総称です。Makolinski(2013)によると、避妊去勢プログラムには次の5つの類型があります。
シェルター内のスペイクリニック
多くのシェルターには、犬や猫を譲渡する前に避妊去勢手術を実施するためのクリニックが設置されています。そのクリニックを活用し、地元のペットに対する避妊去勢サービスやTNRを実施することができます。
MASH(Mobile Animal Surgical Hospitals)
集会所などに仮設の手術室を設置し、手術のための資材一式を持ち込む、いわゆる「一斉手術」のことです。この方法はフットワークが軽く、初期投資も低額に抑えられます。反面、輸送することにより機器の消耗を招きますし、手術器具を滅菌・保管するための基地も必要です。
MSNC(Mobile Spay/Neuter Clinics)
大型のバンやトレーラーなどを改造した「移動手術室」で出張する方法です。米国の一部のシェルターではこういう車両で、動物病院がない地域や、避妊去勢への自覚が乏しい飼い主が多い地域に定期的に出張しています。車両は災害時の救護施設や臨時譲渡センターとしても使用できますし、車両が大きいので、それ自体の広告効果も期待できます。しかし車両費や維持費などのコストが高額で、また車両の大きさによっては大型免許が必要になるかもしれません。
専用のスペイクリニック
アニマルシェルターは交通の不便な場所にありがち(一種の「迷惑施設」ですから)なので、利便性の高い場所に避妊去勢手術に特化した固定式のクリニックを設置するという考え方もあります。しかし一定の初期投資と、建設時間がかかります。
費用の助成
譲渡後の動物の避妊去勢手術を最寄りの動物病院で実施し、かかった経費を助成するという考え方もあります。この方法には、将来のかかりつけ医との関係構築の機会という、大きなメリットがあります。動物病院での実施ですので初期投資はかかりませんが、手術費用は比較的高めですので、助成のための財源が大きな問題となります。