シン・シェルターメディスン超入門(48)収容動物の福祉を担保する

シェルターメディスンとは「安直な安楽殺に頼ることなく、アニマルシェルターに収容されている動物の福祉を担保するための獣医療」と表現できます。そのためには、できるだけ動物をシェルターに入れないことが重要です。しかしやむを得ず動物をシェルターに入れてしまったら、福祉を担保しつつケアを行い、できるだけ早くシェルターから出すことが求められます。そのことにより、シェルターに収容されている動物の個体数が適正化され、そのけっか収容動物に対する十分なケアが実現するわけです。

ここまでは「シェルターに動物を入れない」こと、そして「シェルターから動物をできるだけ早く出すこと」に着目してシェルターメディスンを概観してきましたが、滞在中の動物の福祉もシェルターメディスンの重要なトピックです。ここからは、「シェルターに滞在する動物の福祉を担保する」という観点から見ていきましょう。

 

動物の福祉とは

動物福祉の原則としてあまりにも有名なのが“Five Freedoms”(5つの自由)、すなわち「飢えや渇きからの自由」「不快からの自由」「痛み、怪我、または病気からの自由」「通常の行動を表現する自由」「恐怖と苦痛からの自由」です。シェルターメディスンという獣医療分野は、まさに「5つの自由」を担保するための獣医療として発展してきました。

近年、「5つの自由」に代わる動物福祉の概念として“Five Domains”(5つの領域)が提唱されています。これは「栄養(Nutrition)」「環境(Environment)」「健康(Health)」「(行動の)機会(Opportunity)」そして「精神状態(Mental state)」の「5つの領域」において、“Negative experiences” (嫌な体験)を減らしつつ、“Positive experiences” (うれしい体験)を増やしていこうという考え方です。ASV(シェルター獣医師会)の最新のシェルターケアのガイドラインは、「5つの領域」の考え方に基づいています。

 

動物の福祉を担保する方法

動物の福祉を担保するための具体的方策については、次のようなことがあげられます。

 

・動物種の特性に合わせた適切なケア

・快適な住居環境(住居構造、衛生管理)

・適切な健康管理

・エンリッチメント

 

そして忘れてはならないのは、これらのケアを実施するためには、それなりの費用・設備・人員が必要なこと、そしてそれを実現するためにはシェルターに出入りする動物の個体数管理が必要です。当然ですが、シェルターに滞在する動物のケアよりも、避妊去勢手術の普及などにより、そもそもシェルターに動物を入れない仕組みづくりの方がはるかに楽です。