シン・シェルターメディスン超入門(52)飼養施設

動物福祉の「5つの領域(Five Domains)」の2つ目は「環境(Environment)」です。アニマルシェルターの飼養施設の環境は、シェルターにおける収容動物の「経験」の良し悪しに直結しますし、悪い環境は疾病の原因にさえなります。飼養施設について、最低限の必要事項は次のとおりです。

 

外囲いの数と構造

シェルターの環境のうち、最も重要なのは動物に直接触れるケージやランなどのPrimary Enclosure(外囲い)です。外囲いの数や構造は、収容動物の種類や数、そして予想される滞在期間に適したものでなければなりません。

 

動物の適切な分離

シェルター内においては動物を適切に分けて収容する必要があり、そのための設備を有していなければなりません。具体的には

 

動物種:捕食者と被捕食者を同居させると、被捕食者に著しいストレスを与えます。例えば犬と猫を同居させてはいけません。

 

健康状態:感染症に罹患しているおそれがある動物、または健康状態が未確認である動物は、その懸念が解消するまでは隔離する必要があります。

 

行動:攻撃的な個体は、他の個体と分けて収容する必要があります。

 

預かりボランティアの飼養施設

シェルターの収容動物をFoster(預かりボランティア)に預ける場合、その飼養施設はシェルターと同様かそれ以上である必要があります。

 

飼養施設の具体的要件

シェルターの飼養施設が満たすべき具体的要件については、ASV(シェルター獣医師会)の“The Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”(https://jsmcah.org/index.php/jasv/article/view/42)で示されていますので、ご参照してください。手っ取り早く日本語で読みたい方は、ここを読んでください。

また日本においては「動物愛護法」の規定により、動物取扱業(ペットショップやブリーダーなどに加え、非営利のアニマルシェルターのうち一定規模以上のものも含む)における「犬猫の飼養管理基準」が定められていて、その中で飼養施設が満たすべき基準(いわゆる「数値基準」)が示されています。その内容は概ねASVのガイドラインに沿っています。その内容については動物取扱業者を監視指導する自治体職員向けのマニュアル「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~」(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/r0305a.html)に記載されていますので、それをご参照ください。非営利のシェルターのうち一定規模以下のものや、個人ボランティアの場合にはこの基準が適用されないこともありますが、動物福祉を担保することを念頭に置いた規定ですので、適用外施設であっても順守することが望ましいといえます。