動物福祉の「5つの領域(Five Domains)」の2つ目は「環境(Environment)」です。アニマルシェルターにおける飼養施設の構造については前回述べましたが、いくら良い飼養施設を有していても衛生管理を怠ると収容動物の福祉は担保できません。不衛生な状態は不快であるばかりではなく、感染症を蔓延させる原因にもなるからです。
衛生管理(Sanitation)
Sanitationとは直訳すると「衛生」で、施設(建物)や設備(物品)の衛生や、従事者の衛生(個人衛生)など、シェルターにおける衛生管理をざっくりと総称した言葉です。しかしながら「衛生」という言葉はざっくりしすぎているので、ここでは「衛生管理」と訳しておきます。
衛生管理の基本
シェルターにおける衛生管理の基本は「病原体を拡散させない」ことです。シェルターにはさまざまな出自の動物が集まってきます。その中には病原体を保有している動物がいるかもしれません。病原体は施設や設備を介して、またはスタッフの手指を介して拡散します。病原体を拡散させないためには、動物が触れた施設や設備、スタッフの手指などは病原体に汚染されているという前提で洗浄消毒する必要があります。
洗浄消毒の3つのステップ
洗浄や消毒は、有機物の除去→洗浄→消毒という3段階の流れとして実施されます。これは施設や設備といった「物」も、手指も、考え方は同じです。
有機物の除去
洗浄の前に、残渣や糞便など目に見える有機物を除去することが必要です。どうせ洗い流すのだからと有機物が残ったまま洗浄剤や石鹸を用いて洗浄すると、洗浄の効率が非常に悪くなります。
洗浄
目に見える汚れを取り除いた後に、洗浄剤(手指の場合は石鹸)と温水を用いて徹底的に洗浄します。病原体を含む有機物を物理的に除去するという意識でこすり洗いします。洗剤や温水が残っていると消毒の効率が悪くなるので、洗剤を完全にすすぎ、乾燥させる必要があります。
消毒
消毒剤を用いて、洗浄では除去しきれなかった病原体を不活化します。消毒剤は指定された濃度で、指定された時間だけ接触させることによって効果を発揮します。注意すべきことは、病原体の種類によって効果がある消毒剤の種類が異なることです。例えば消毒剤としてよく用いられているアルコールは、シェルターで問題になるパルボウイルスや皮膚糸状菌などにはあまり効果がありません。またフェノール類は猫に毒性を示すので注意が必要です。そのため、消毒剤は対象となる動物種や使用目的によって使い分ける必要があります。