動物福祉の “Five Domains”(5つの領域)の3つ目は「健康(Health)」です。アニマルシェルターにおける動物の健康管理は、感染症予防が中心です。シェルターには、病歴や免疫状態が不明の動物が多数収容されます。たとえ見た目が健康な動物であっても、病原体を保有しているかもしれません。またシェルターへの収容そのものがストレスとなり、動物の免疫状態が低下します。そのため、シェルターは感染症が起こるリスクが極めて高い場所です。シェルターにおける感染症対策には、次の3つの視点が必要です。
免疫力の低下防止
ストレスは動物の免疫力を低下させ、感染症のリスクを高めます。収容動物のストレスを軽減するためには、必要なケアを実施できる適切な収容数を維持し、かつ積極的なエンリッチメントを提供することが基本です。その他、決まった担当者が定例的にケアを行う、適切な疼痛ケアを実施するなどの配慮も必要です。
予防医療
受入れ時のワクチン接種や駆虫といった予防医療は、シェルター内の感染症予防に有効です。必須とされる「コアワクチン」(犬の「5種混合ワクチン」、猫の「3種混合ワクチン」)については、受入れるすべての動物(妊娠している動物や軽度の病気の動物を含む)に直ちに接種することが理想です。同様に、受け入れ時および定期的な駆虫も必要です。
病原体への暴露防止
感染症が広がるには、<感染源><宿主><感染経路>の3つが必要です。このどこかを断ち切るのが感染症予防の原則ですが、シェルターにおいて<感染源><宿主>を制御することは不可能ではないにしても困難です。つまり、感染経路を断つことがシェルターにおける感染症予防の要になります。シェルターで発生しうる、5つの感染経路は次のとおりです。
接触感染:直接接触することで感染する
媒介物感染:無生物(施設や器具など)やスタッフの手指を介して感染する
飛沫感染:病原体を含んだ飛沫が空気中を短距離移動する
空気感染:病原体を含んだ微細な粒子が空気中を漂い移動する
ベクター感染:昆虫やダニなどの生物によって病原体が媒介される
これらのことを念頭に、シェルターの衛生管理を考える必要があります。具体的には
・スタッフや来所者の手洗いの励行
・動物を受入れる際の健康診断、必要に応じて隔離・検疫
・受入れ時のワクチン接種や駆虫(特にマダニ駆除)
・施設や設備の洗浄消毒
・個人用保護具(PPE)の使用
などが考えられます。