アニマルシェルターにおいて、収容動物の福祉向上のために飼育環境を「豊か」にすることを“Enrichment”(エンリッチメント)と呼んでいますが、シェルターのエンリッチメントにおいて最も重視されているのが「社会的交流(social interaction)」です。
なぜ社会的交流が重視されるのか
犬や猫といったコンパニオンアニマルは、家庭動物として飼い主やその家族、そして他のペットと一緒に暮らすのが本来の姿です。収容動物が孤独になりがちなシェルターにおいて積極的に人や他の個体と交流する機会を与えることは、犬や猫の社会的ニーズを満たすだけではなく、家庭動物としてふさわしい行動を身に付けさせ、譲渡を促進することにつながります。
人間との社会的交流
人馴れしている犬や猫には、シェルターに入った時から積極的で定期的な人間との交流が必要です。ただし行き当たりばったりで粗雑な取り扱いは動物のストレスを増す可能性がありますので、穏やかで定例的な(例えば、触れ合う時間や担当者をできるだけ変えない)取り扱いを心がけます。
動物が人間との交流をどの程度好むかには、個体差があります。身体的スキンシップを好む個体もいますし、一定の距離を置きながら一緒に遊ぶことを好む個体もいます。中には人間との接触を好まない個体もいます。そのあたりは、動物をよく観察して調整する必要があります。
なお疾病や行動上の理由などで隔離されている犬や猫も、人間との社会的交流が必要です。直接触れ合うことは難しいかもしれませんが、ケージの外から声をかける、おもちゃを与えるといった交流は可能です。その際にはもちろん、PPE(個人用防護具)の装着やおもちゃの消毒など病原体の拡散防止措置が必要です。
犬のしつけ
犬に基本的なしつけを行うことも、人間との社会的交流の良い機会になります。LuescherとMedlock(2009)の研究によると、基本的なしつけをされた犬はそうでない犬の1.4倍多く譲渡されたそうです。しつけのための訓練は「正の強化」(ごほうびを与える)を用いて行うべきで、 正当な理由なしに罰を用いるべきではありません。
動物との社会的交流
一般的にシェルターにおいては、管理上の理由から動物を個別に収容しています。これは衛生的観点からは間違いではないのですが、特に犬のように社会性の高い動物については他の個体との交流が重要です。そのためには相性の良い個体同士をペアで収容する、または定期的に他の個体と遊ばせるといった方法により、社会的交流を図る必要があります。猫の場合も、大きな部屋で共同飼育することで、社会的ニーズを満たすことができます。またいわゆる「社会化期」の子犬や子猫については、他の個体との社会的交流により精神的成長を促すことが必要です。
しかし慣れない集団に動物をいきなり入れることはストレスになりますので、無理をせず徐々に導入することが必要です。また相性の悪い動物同士を無理やり一緒にしたり、過密状態にすることは、共同飼育のメリットを台無しにしてしまうので注意が必要です。