シン・シェルターメディスン超入門(60)種特有の行動を行う機会

アニマルシェルターにおいて、収容動物の福祉向上のために飼育環境を「豊か」にすることは“Enrichment”(エンリッチメント)と呼ばれ、栄養管理や衛生管理と同等に重要とされています。シェルターのエンリッチメントのひとつが「種特有の行動を行う機会(opportunities to perform species-typical behaviors)」です。

 

外囲いの環境

動物を収容するケージなどの「外囲い」が狭く身動きが取れないと、当然ながら「種特有の行動」も行うことができません。そのため外囲いは、動物が快適で自然な位置に完全に座ったり、立ったり、伸びたり、食べたり、飲んだり、排泄したり、排便したり、動き回ったりするだけの面積が必要です。そのうえで給餌場所、排泄場所、休息場所はそれぞれ最大限離す必要があります。

 

猫の外囲いの注意点

猫の場合、ケージには寝床を備えた隠れ家が必要です。また猫は高い場所を好むため、ケージは直置きではなく少し高い位置に置く必要があります。

 

遊び場または運動場

犬を長期間収容する場合には、1日に1~2回運動できる遊び場または運動場を設けるか、散歩させる必要があります。

 

集団飼育

犬は高い社会性を有していますから、生後4か月以降の犬を共同飼育したり、グループで遊ぶ時間を設けることは、エンリッチメントの観点からも有効です。

 

採餌エンリッチメント

シェルターで犬や猫にフードを与える際には普通に皿に入れているでしょうし、それで何の不都合もありませんが、それが「本来の」姿であるかどうかは別問題です。「何を」「どのように」食べるかは、生物種によって異なります。例えば猫は獲物を追跡し捕獲しますし、犬は食べ物をあさり、舐め、かじります。「採餌エンリッチメント」は、動物本来の採餌行動を再現し、種特有の行動を呼び覚まそうとする試みです。具体的には犬や猫にフードを仕込んだ「知育おもちゃ」を与え、狩りや探索を疑似的に体験させるわけです。犬や猫は知育おもちゃに仕込まれたフードを苦労して取り出し食べることになります。そのことは身体的及び精神的刺激を与えますし、行動がより「自然」になるきっかけを与えます。知育おもちゃは市販品もありますが、ラップの芯や菓子箱などを用いて自作することもできます。

 

爪とぎ場

猫の外囲いまたは遊び場には、爪とぎ場を設ける必要があります。既製品の「スクラッチャー」もありますし、段ボールや廃材、古いカーペットなどを用いることもできます。