シン・シェルターメディスン超入門(61)環境の選択と制御

アニマルシェルターにおいて、収容動物の福祉向上のために飼育環境を「豊か」にすることは“Enrichment”(エンリッチメント)と呼ばれ、栄養管理や衛生管理と同等に重要とされています。シェルターのエンリッチメントのひとつが「環境の選択と制御(choice and control over their environment)」です。

 

「環境の選択と制御」とは

「環境の選択と制御」と難しい表現を用いていますが、簡単に言えば「動物が自らの意思で好きなタイミングで休息、採食、飲水、排泄、運動、移動などができる」そして「動物が自分で快適だと思う状況を選ぶ、または悪いと思う状況から逃れることができる」ことです。もちろんシェルター収容下の制約はありますが、可能な限り「環境の選択と制御」を提供する必要があります。

 

物理的スペース

前回も述べたように、外囲いには動物が快適で自然な位置に完全に座ったり、立ったり、伸びたり、食べたり、飲んだり、排泄したり、排便したり、動き回ったりするだけの面積が必要です。また嫌な状況から退避することができるスペースも必要です。犬や猫を窮屈な囲いに閉じ込めると運動や探索ができないため、活動低下やペーシング(同じ場所を同じ速度で歩き続ける)などの異常行動を引き起こすことがあります。床面積に余裕がない場合は、棚(猫)や小上がり(犬)、交代で使用できる遊び場などを用いて物理的面積を広げることができます。また家庭環境(例えば居間)を再現した部屋は元ペットにとって快適でしょうし、そうでなくても家庭環境への順応に役立ちます。

 

隠れ家

ほとんどの猫や神経質な犬には、嫌な刺激から退避するための「隠れ家」が必要です。具体的には箱型の隠れ家、高い位置の棚、ケージの仕切り、退避用のケージの接続などが考えられます。

 

棚や小上がり

棚や小上がりは物理的スペースを拡大するだけではなく、犬や猫に床よりも乾燥して清潔な場所で休憩する選択肢を与えます。また高い位置から周りを見渡すことができ、多様な視覚的刺激を与え、また行動の機会を増大させます。犬の場合、構造的な小上がりの代わりにいわゆる「犬用ベッド」を用いることができます。また猫の場合、移動用キャリーケースをケージの中に入れておくと、内部が隠れ家として機能するだけではなく、キャリーの屋根が棚や小上がりとして機能します。その際に段ボール製のキャリーケース(例えば“Hide-Perch-and-Go”)を用いると、譲渡の際にも便利です。

 

柔らかい寝具

すべての動物に柔らかい寝具が必要です。寝具は心地よい触覚を提供したり体温調節に役立つだけではなく、その場所を休憩所として定義することにより環境の多様性を実現できます。また猫は寝具を用いて営巣や隠遁といった本来行動を取ります。