ここまで2か月にわたりシェルターメディスンの基本的考え方について書いてきましたが、ここで一区切りにしたいと思います。いったん、ここまでのまとめです。
シェルターメディスンの基本理念
シェルターメディスンとは「安易な安楽殺に頼ることなく、アニマルシェルターに収容された動物の福祉を担保するための獣医療」と定義できます。そのために必要なことは下の3つです。
シェルターに動物を入れない
動物をシェルターに入れること自体が動物福祉を損なうリスクがあるので、動物をシェルターに入れないことが原則です。これはいわゆる「受入れ拒否」ではなく、繁殖制限やマイクロチップの普及、飼い主教育などにより、「シェルターに入れるべき」動物の数自体を減らしていくことで実現すべきです。
シェルターから動物を早く出す
シェルターにおいて動物福祉が損なわれるリスクは、滞在期間に比例して増大します。そのため、やむを得ずシェルターに動物を入れてしまったら、できるだけ早く出す努力をすべきで、その際には生きて出す(ライブリリース)ことを目指すべきです。ただし動物がけがや病気などで苦しんでいて回復の見込みがないと判断された場合は、速やかに適切な方法で安楽殺すべきです。
シェルターに滞在する動物の福祉を担保する
やむを得ずシェルターに動物を入れた場合、栄養管理や健康管理、エンリッチメントといったケアを適切に実施し、収容動物の福祉を担保する必要があります。その際には動物福祉の「5つの自由」や「5つの領域(domains)」に基づくべきです。
シェルターメディスンを突き詰めると、この3原則に集約できます。具体的に何をすべきか、何をすべきではないかは、この原則に照らし合わせて判断すればよいのです。
もっと深く理解したい人のために
シェルターメディスンの教科書としては“Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition”(Lila Millerおよび Stephen Zawistowski編、2013)が定番です。もちろんすべて英語ですから読むのは大変ですが、シェルターメディスンについて理解するにはこの本を読むのが近道だと思います。ただしこの本はASV(シェルター獣医師会)のシェルターケアガイドラインに沿って書かれているので、昨年のガイドライン改訂に伴い第3版が発行される可能性があります。
その元ネタの “The Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”(https://jsmcah.org/index.php/jasv/article/view/42)はASVのホームページで無料で読むことができます。私の過去のブログ記事でも、重要な部分を抜き出して解説していますのでぜひ参照してください。
また日本の環境省の「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~」(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/r0305a.html)は、動物取扱業者を指導する自治体職員向けのマニュアルですが、シェルターメディスンの専門家が執筆に加わっていますし、コラム記事も充実しているので、日本語で軽く読んでみたい方にはおすすめです。