譲渡の障壁について考える(2)経済的要因

Hill’s Pet Nutritionによる“2023 State of Shelter Adoption Report”(以下「レポート」)※1から、特に犬の譲渡が思うように進まない理由について見ています。

 

譲渡が進まない要因

アニマルシェルターの保護動物を譲渡するにあたり、一般的に障壁となる事項について「レポート」は「経済的要因」「住居の制限」「シェルターでは「完璧なペット」を見つけられない」の3点を挙げています。

 

その1 経済的要因

譲渡を妨げる経済的要因として、「レポート」ではこのような調査結果を示しています。

 

BARRIERS TO SHELTER PET ADOPTION: FINANCIAL

71% Cost of pet ownership, with veterinary care as the top expenditure

16% Economic downturn

15% Access to veterinary care

 

保護動物の譲渡を妨げる障壁: 経済的

71%が「ペット飼育にかかる費用、特にペットの医療費」が問題であると回答

16%が「景気後退」が問題であると回答

15%が「動物病院にかかりにくい」と回答

 

「レポート」によると、米国ではインフレ率を上回る獣医療コストの高騰が飼い主に大きな経済的負担を与えているといいます。その背景には急速なインフレの進行による必要経費の高騰と、深刻な獣医師不足による人件費の増大があります。そのため、経済的理由から動物病院を敬遠していた低所得者層に加え、中流層の飼い主も動物病院にかかりにくい状況となっています。そのことが保護動物の譲渡を妨げるばかりか、飼い主がペットを手放す要因にもなっています。その結果、シェルターの収容動物の数が増えているのです。

 

日本の現状

(公社)日本獣医師会の「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査結果(令和3年度)」によると、診療料金は平成27年度の同調査と比べ引き上げられている傾向がありました。例えば初診料は1,386円から1,500 円、再診料は726円から750円、時間外診療(深夜)は4,513 円から6,250円、健康診断料(1日ドック)は14,021円から16,250 円(いずれも中央値)となっています。しかし前回調査からかなり年数が経っており、急激に高騰したというわけではないようです。

一方飼い主が負担している医療費を見ると、(一社)ペットフード協会※2やアニコム損害保険(株)※3の調査結果からは、犬や猫の医療費が高騰しているという傾向はみられません。犬や猫の飼育にかかる全体の費用についても、前年比で微増または微減となっています。しかし日本においては現在も物価高騰が続いているため、医療費だけではなくフード代等についても注視していく必要があります。

 

※1  https://www.hillspet.com/content/dam/cp-sites/hills/hills-pet/en_us/general/documents/shelter/hills-pet-nutrition-2023-state-of-shelter-adoption-report.pdf

 

※2 http://nichiju.lin.gr.jp/small/ryokin.html

 

※3 https://petfood.or.jp/topics/img/221226.pdf

 

※4 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000100.000028421.html