譲渡の障壁について考える(3)住居の要因

Hill’s Pet Nutritionによる“2023 State of Shelter Adoption Report”(以下「レポート」)※から、特に犬の譲渡が思うように進まない理由について見ています。

 

その2 住居の要因

譲渡を妨げる住居の要因として、「レポート」ではこのような調査結果を示しています。

 

BARRIERS TO SHELTER PET ADOPTION: HOUSING

73% Housing restrictions may prevent owning any pet

19% Limit number of pets allowed

15% Limit size of pets allowed

 

保護動物の譲渡の障壁:住居

73%が「住居の制限によりペットを飼うことができない場合がある」と回答

19%が「飼うことができるペットの数に制限がある」と回答

15%が「飼うことができるペットの大きさに制限がある」と回答

 

ペットを飼おうとしている人がどのような住居に住んでいるかも、譲渡を推進するうえで重要な要素になります。「レポート」によると、特に35歳未満は賃貸住宅に住む人が多く、Millennials(ミレニアル世代:1981年から1996年生まれの“Y世代”)やGen Zers(Z世代:1997年から2012年生まれ)にとって、賃貸住宅のペット飼育制限が譲渡の大きな障害になっているといいます。具体的には

 

・Monthly “pet rent”(ペットを飼う際に加算される「ペットの家賃」) 

・substantial deposits(入居の際に支払う「ペット保証金」) 

・size and breed restrictions(大きさや品種の制限)

 

といった制限があります。 

そのため、賃貸住宅で犬を飼おうとするとどうしても小型犬ということになってしまうのですが、米国のシェルターで譲渡対象になっている犬は中~大型犬が多く、結果的にシェルター以外から小型犬を入手することになってしまうのです。「レポート」はヒューストンSPCAのPatricia Mercerのコメントとして、「大型成犬の譲渡に関する地域社会の考え方を変えるために、国や地方が集中的に取り組むことで、彼らの収容期間を短縮し、彼らの将来を変えることができるかもしれない」と述べています。言い換えれば、大型成犬の譲渡促進は社会変革を伴わなければならないほど困難な課題であるということになります。

 

日本の現状

賃貸住宅でペットを飼う際の制限は日本も同様です。日本では「ペットの家賃」や「ペット保証金」は一般的ではありませんが、ペット飼育可の賃貸物件は一般的に相場より家賃が高く、飼育できるペットの大きさや数なども制限されています。そのため、飼うとしても猫か小型犬を選ばざるを得ません。特にウチの自治体のように野犬が多いところでは小型犬の譲渡はまれで、どうしても中~大型の野犬が譲渡対象になります。もちろん野犬の子犬も譲渡対象ですが、将来どこまで大きくなるかは誰にもわからないので、賃貸住宅に住んでいる人には安易に薦めることができないのが現状です。

 

※  https://www.hillspet.com/content/dam/cp-sites/hills/hills-pet/en_us/general/documents/shelter/hills-pet-nutrition-2023-state-of-shelter-adoption-report.pdf