譲渡の障壁について考える(10)シェルター獣医師やスタッフのメンタルヘルス

Hill’s Pet Nutritionによる“2023 State of Shelter Adoption Report”(以下「レポート」)※では、獣医師やシェルター職員のメンタルヘルスについての調査結果も示しています。

 

ペットのケアをする人々への配慮

米国では獣医師の自殺率が一般の3倍といわれ、CDC(米国疾病予防管理センター)の最新の調査によると、獣医師の6人に1人が自殺を考えたことがあるといいます。特にアニマルシェルターはさまざまな意味でストレスの大きい場所です。「レポート」は調査回答者の多くが、アニマルシェルターの状況がそこで働く人のメンタルヘルスに影響を与えていることを認識しているとして、このような調査結果を示しています。

 

54% of pet owners are aware of mental health issues impacting veterinarians and shelter professionals

ペットの飼い主の54%が「獣医師やシェルター専門家のメンタルヘルスの問題を認識している」と回答

86% view the mental health of veterinarians and shelter professions as important or very important

86%が「獣医師やシェルター専門家のメンタルヘルスが重要、または非常に重要であると考えている」と回答

 

「ワンヘルス」としてのメンタルヘルス

「動物と人間、そして環境の健康はひとつ」という「ワンヘルス」(One Health)という概念が示されて久しいですが、日本において獣医療分野でワンヘルスといえば人獣共通感染症や薬剤耐性菌がクローズアップされがちです。しかしシェルター従事者のメンタルヘルスも、ワンヘルスの重要な分野のひとつです。なぜならシェルター従事者のメンタルヘルスは提供するケアの質や動物の精神状態に影響を与え、ひいては動物の健康に影響を与えるからです。「レポート」の調査結果は、少なくとも米国においてはシェルター従事者のメンタルヘルスの重要性が一定程度認識されていることを示しています。ちなみに米国ではシェルター従事者の「燃え尽き症候群」や「共感疲労」などが問題になっていて、Veterinary Hope Foundationが動物保護関係者のメンタルヘルスについての相談窓口を設けています。

 

日本の状況

残念ながら日本においては、シェルター従事者のメンタルヘルスについての認識はきわめて低いと言わざるを得ません。特に自治体で動物愛護管理行政に携わっている職員に対する誹謗中傷については、目に余るものがあります。その多くは殺処分に対する非難で、私も口汚く罵られた経験があります。ただでさえストレスの多い職場で、それに追い打ちをかけるような苦情電話やメールは、職員のモチベーションを著しく低下させます。これでは動物の適切なケアや適切な譲渡活動もままなりません。

 

※  https://www.hillspet.com/content/dam/cp-sites/hills/hills-pet/en_us/general/documents/shelter/hills-pet-nutrition-2023-state-of-shelter-adoption-report.pdf