豪州クイーンズランド大学などの研究チームは、シェルターに収容されている猫への“gentling”の頻度や手法が、その猫の行動にどのような影響を及ぼすのか調査しました※。私の語彙力では“gentling”にずばり対応する日本語の訳語を見つけられなかったのですが、要するに「穏やかな接触によって動物を落ち着かせ、信頼関係を築く手法」のことです。「穏やかな接触」は具体的には優しく撫でる、前足をそっとつかむ、しっぽを優しく引っ張るといったボディタッチを指します。ちなみに “petting”は優しく撫でる行為そのものを指します
それはともかく、シェルターの収容猫に“gentling”を行うことで、満足行動が増加し不安が軽減されることはわかっています。しかしどのような“gentling”か効果的かということについてはよくわかっていません。そこで研究チームは3つの仮説を立てました。
1.“gentling”をまとめて行うよりも、短時間に分けて複数回行う方がよいのではないか?
2.“gentling”の際の声掛けは人間の良い感情を示し、効果的ではないか?
3.“gentling”の1日当たりの総時間数は長いほうがよいのではないか?
実験1
研究チームはまず、1と2の仮説について検証するため、猫を次の4群に分け、5日間継続しました。
Str Long No Voc(無言で6分間×1回)
Str Short No Voc(無言で2分間×3回)
Str Long Voc(話しかけながら6分間×1回)
Str Short Voc(話しかけながら2分間×3回)
その結果、
・「無言で6分間×1回」は「無言で2分間×3回」よりも有益であると示唆された。
・「無言で1日6分間」の猫はケージ内の手前で過ごすことが多く、さらなる接触を求めていることが示唆された。また無言で撫でられた猫は、ケージ内でおもちゃで遊ぶ時間が減った。
・「話しかけながら1日6分間」の猫はケージの奥で多くの時間を過ごし、さらなる接触を求めていないことが示唆された。
このことから、
・“gentling”は分割して少しずつ実施するより、同じ時間だけまとめて実施する方が効果的
・“gentling”の際には無言で行うことが効果的
であることが推測されました。つまり、猫への“gentling”の際には、話しかけないほうがよいかもしれないというわけです。しかし猫への声掛けは一般的に行われており、意識せずとも自然に声が出てしまうものではないでしょうか。この報告においても「さらなる研究が必要」とされています。
※“The effects of the frequency and method of gentling on the behavior of cats in shelters”
「gentlingの頻度と方法がシェルターの猫の行動に及ぼす影響」
Liuら(2020)、Journal of Veterinary Behavior Volume 39, September–October 2020, Pages 47-56
(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1558787820301039)