FeLV/FIV陽性の猫の処遇について考える その1

猫白血病や猫エイズは、一般的な猫の感染症です。アニマルシェルターにおける猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)のキャリア(症状はないが病原体を保有している)猫の取扱いにはさまざまな議論があります。かつてこれらのウイルスの簡易検査で陽性を示した猫については「予後不良」として殺処分対象になるか、もしくは過剰収容を緩和するための殺処分の際に優先されるといった傾向がありました。その背景には猫白血病や猫エイズは「不治の病」という印象があり、またキャリアの猫は隔離など特別のケアが必要で、ただでさえ過剰収容で汲々としているシェルターにおいて、とてもそんな余裕はないといったことがあげられます。

 

米国では、FeLVやFIVのキャリアの猫であっても、できるだけ譲渡していこうという試みが少しずつではありますが始まっています。フロリダ大学などの研究チームは、フロリダ州のアニマルシェルターにおいて、FeLVやFIVのキャリアの猫がどう扱われているのかを調査しました※。その報告をもとに、アニマルシェルターにおけるFeLVやFIVキャリア猫の取扱いについて考えていくことにしましょう。

 

レトロウイルスとは

その前に、それぞれのウイルスについて簡単におさらいしておきましょう。FeLVやFIVは「レトロウイルス」と呼ばれる種類のウイルスです。通常の動物細胞は自らのDNAをもとにRNAをつくり、タンパク質生成などの指令を出しますが、レトロウイルスは自らのRNAからDNAをつくり(この工程が通常の逆、つまり「レトロ」)、寄生した細胞のDNAに組み込み癌化させるウイルスです。これらのウイルスが免疫細胞に感染することにより、白血病や免疫不全を引き起こします。

 

猫白血病ウイルスとは

FeLV (猫白血病ウイルス)は文字通り「猫白血病」を引き起こすウイルスです。FeLVは唾液や鼻汁などを介して、猫同士の濃厚接触により感染します。またまれに、トイレや餌皿を介して感染することもあります。しかし主な感染経路は母猫から子猫への垂直感染であると考えられています。感染した猫のFeLVに対する反応は2種類あります。「退行型」は強力な免疫反応によりウイルスの増殖が抑えられ、感染した猫は臨床症状を示すことなく比較的長期間生存します。「退行型」の場合、体内のウイルス量が少ないため感染源になる可能性も低いといえます。「進行型」は体内でウイルスが増殖し、数年以内に発症し死に至ることもあります。一般的に子猫は成猫よりもFeLVに感染しやすく、「進行型」に移行しやすいといわれています。

 

猫免疫不全ウイルスとは

猫免疫不全ウイルス(FIV)とは猫後天性免疫不全症候群、いわゆる「猫エイズ」を引き起こすウイルスです。FIVは成猫になってから、けんかの傷から体液を介して感染することが多いといわれています。また感染しても発症することなく、通常の寿命を全うすることも珍しくはありません。猫エイズは猫白血病と比べて、発症率が低く症状も軽いといわれています。

 

※ Dezubiriaら(2023) “Animal shelter management of feline leukemia virus and feline immunodeficiency virus infections in cats”

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2022.1003388/full