フロリダ大学などの研究チームは、フロリダ州のアニマルシェルターにおいて、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)のキャリアの猫がどう扱われているのかを調査しました※。その結果についての考察を見ています。
TNR/RTFの対象猫
TNR(野良猫を捕獲し、避妊去勢手術を施し捕獲場所に戻す活動)やRTF(シェルターに収容された野良猫のうち、譲渡不適とされた猫に避妊去勢手術を施し保護場所に戻す事業)の対象の猫にTNR/RTFの検査を実施したシェルターは115施設中21施設で、低い実施率を示しました。これは米国全体の傾向と同様です。
TNRやRTFにより、野良猫の過剰繁殖や繁殖行動が抑えられます。それは結果的にFeLVの母猫から子猫への感染や、オス猫同士のけんかによるFIVの感染のリスクを低減します。AAFP(米国猫獣医師会)は、避妊去勢手術を行う野良猫の数が多ければ多いほどこれらの効果が高まるとしています。そしてFeLV /FIVの検査に費やすリソースを避妊去勢手術そのものに振り向けることが望ましいとして、TNR/RTFの対象猫に定例的にFeLV /FIVの検査を行うことを推奨していません。これはどういうことかというと、FeLV やFIVの簡易検査キットも決して安価ではありませんから、そのコストを例えば執刀医の人件費や備品購入費などに充て、本来業務である避妊去勢手術の効率を高めていくことにより、野良猫のFeLVやFIVの感染を防止することができるということです。
FeLV陽性の猫の譲渡の実例
この論文の中ではFeLV陽性の猫に特化した譲渡事業として、テキサス州オースティンのAustin Pets Alive!(APA!)のFeline Leukemia Adoption Centerの例が紹介されています。このセンターはこの種の施設としては全米初で、毎年数百匹のFeLV陽性の猫が、全米だけではなく北米大陸全体から譲渡のために移送されています。APA!はFeLV陽性の猫を無料で譲渡しているほか、譲渡後もFeLVに関連する疾病の治療を、付属のクリニックで生涯にわたり無料で提供しています。また猫白血病についての研究や啓発も行っていて、フロリダ大学とも共同研究を行っています。
この事業で2年間に移送されてきた801匹の猫について、このように報告されています。
・FeLV陽性として移送された猫の19%が、再検査の結果陰性と判定された。このことは、1回の検査のみで猫の処遇を決定することの危険性を示している。
・再検査の結果FeLV陽性と判定された猫のうち、82%は譲渡され、17%は死亡または安楽殺された。
・譲渡後の新しい飼い主の満足度はおおむね高く(満足度95%)、シェルターに戻された猫は4%のみであった。
※ Dezubiriaら(2023) “Animal shelter management of feline leukemia virus and feline immunodeficiency virus infections in cats”
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2022.1003388/full