ここまで、フロリダ州のアニマルシェルターにおいて猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)のキャリアの猫がどう扱われているのかを調査した、フロリダ大学などの研究チームによる報告について見てきました。この報告によると、フロリダ州のすべてのシェルターがFeLV/FIV陽性の猫の処遇に関するAAFP(米国猫獣医師会)のガイドラインを完全に遵守しているとは言い難いものの、譲渡対象の猫を中心にある程度検査が実施され、FeLV/FIV陽性の猫の譲渡もある程度行われていることが示されました。AAFPのガイドラインについて簡単におさらいすると、
・譲渡対象の猫にはFeLV/FIV検査を推奨。
・FeLV/FIV陽性だけを理由とした安楽殺は推奨されない。FeLV/FIV陽性の猫を譲渡対象から除外する医学的理由はない。
・ただしFeLV陽性の猫の譲渡については、先住猫がいない、もしくは先住猫がFeLV陽性である家庭に限るべきである。
・FIV陽性の猫の譲渡については、先住猫との相性が悪くなければ(けんかをしない)、特に制限を設ける必要はない。ただし譲渡の際には、FIV陽性の旨を説明する必要がある。
これが獣医学先進国である米国の、猫専門医団体が示したガイドラインです。
日本の場合
日本にはFeLV/FIV陽性の猫の処遇に関するガイドラインはありませんが、環境省※によると、例えば「パルボウイルス感染症、猫白血病又は猫後天性免疫不全症候群等の感染症に罹患している動物」については「動物衛生又は公衆衛生上問題となる感染症等に罹患し、他の動物又は人への蔓延等を防止するために殺処分が必要な動物」とされ、「譲渡することが適切ではない」とされています。ちなみに「罹患」とは、発症している状態を指します。感染しているが発症していない、いわゆるキャリアの状態は「罹患」ではありません。猫白血病や猫エイズを発症している猫は当然「譲渡不適」で、状態によっては安楽殺の対象になります。このことには何の異存もありません。しかし他の猫への蔓延を防止するというのであれば、感染力を有するキャリアの猫も殺処分しなければならないということになってしまいます。つまりこの表現はきわめて玉虫色で、「どっちやねん」とツッコミを入れたくなるわけです。
まあ曖昧な表現を示されれば、自分たちにとって都合の良い解釈をするのが世の常で、「蔓延防止のために殺処分が必要なのだったら、当然キャリアも殺処分すべきよね」と解釈する自治体があってもおかしくはありません。数年前のデータですが、日本においてFeLV陽性を殺処分の理由とする自治体が3割、FIV陽性を殺処分の理由とする自治体が2割あったようです(のらぬこ調べ)。
※動物愛護管理行政事務提要の「殺処分数」の分類
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/files/r02/bunrui.pdf