野良猫の管理について再考する その1

野良猫の個体数を管理する方法については「全頭捕獲すべき」という意見もありますし、「TNR(Trap-Neuter-Return)によって穏便に個体数を減らすべきだ」という意見もあります。もちろん、どちらが「正しい」かというジャッジは難しいですが、様々な手法についての利点や欠点を考察し「よりまし」な対策を進めていくことは可能です。HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文において、このあたりが整理されています。この論文の内容に沿って、いわゆる野良猫の管理について考えていこうと思います。

 

「野良猫」を定義する

この論文では“Free-Roaming Cat”、直訳すると「自由に歩き回る猫」という言葉が使われています。これはかなりざっくりとした概念です。論文においてはこう表現されています。

 

Therefore, this review will focus on the potential for cat management practices to achieve common societal goals with respect to any cat found outside without evidence of ownership, for which the umbrella term “free-roaming cats” will be used.

そのため本論文では、“free-roaming cats”という包括的な用語が用いられる、飼い主不明で屋外で発見されたあらゆる猫に関して、社会共通の目標を達成するための猫の管理方法の可能性に焦点を当てる。

 

一言で“Free-Roaming Cat”と言っても、その形態はさまざまです。例えば人馴れしているか否か、飼い主がいるか否か、人間の庇護が必要か自活しているか、人里で生活しているか山野に生息しているか…など。“Free-Roaming Cat”はそれらの要素によって、“Stray cat”(迷い猫)、“Community cat”(地域「の」猫)、“Feral cat”(ノネコ)などに「分類」されます。しかしそれは見た目だけでは判定できませんし、分類したとしてもその後カテゴリーが変わる可能性もあります。そのためこの論文においては、野外で保護された飼い主不明の猫すべてを対象としているわけです。なお本ブログにおいては“Free-Roaming Cat”を、日本人が直感的に理解できる「野良猫」という言葉を用いて訳すことにします。

 

野良猫管理の5つの手法

この論文は野良猫を管理する方法を「シェルターが関与しない(non-shelter-based)方法」と「シェルターが関与する(shelter-based)方法」に分類し、後者の利点と欠点を考察していこうとするものです。「シェルターが関与しない方法」としては、民間による「TNR活動」や行政による「駆除事業」があげられます。また「シェルターが関与する方法」として「収容」「RTF(避妊去勢手術ののちに保護場所に戻す)」「放置」という3つの方法があげられています。それらの概要について、次回に詳しく見ていくことにしましょう。

 

Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 84708