野良猫の管理について再考する その5

HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文は、野良猫の管理を主に担うのはやはりアニマルシェルターであるとしています。

 

シェルターが関与する(shelter-based)野良猫の管理

論文はシェルターが関与しない野良猫の管理方法として「TNR活動」「駆除事業」の2つをあげた上で、それでもやはり野良猫の管理を主に担うのはシェルターであるとしています。純然たる民間活動であるTNRはさておき、行政主体の駆除事業はそのコストや手法を考えると、離島や山野ならいざ知らず、人間の居住地で実施することは困難だからです。実際米国において、年間数十億ドルのコストをかけ、毎年数百万頭の猫がシェルターを通過しています。にもかかわらず、シェルターによる野良猫の管理手法について、TNR活動や駆除事業のようにその効果が科学的に検証されていないことは重大な見落とし(important oversight)であると、論文では述べられています。

 

シェルターの限界

論文によると、シェルターによる野良猫の管理にはいくつかの制限があります。それは予算や人員の問題もありますが、最大の問題は、シェルターによる野良猫の入手経路です。前述のとおり、人間の居住地では薬殺や銃撃といった駆除手法を用いることは困難なため、野良猫は生け捕りが基本になります。しかし野良猫を生け捕りするにはその分布や行動などについて熟知している必要がありますし、捕獲器を仕掛けたとしても常に監視しておく必要があります。そのため、シェルターに収容される野良猫のほとんどは計画的に捕獲したというよりも、たまたま住民に保護された個体というのが現状です。つまりシェルターが住民によって持ち込まれた野良猫を手当たり次第に収容したとしても、環境からの除去効果には疑問符が付くわけです。

 

シェルターの役割の再考

これは一例ではありますが、シェルターが慣例的に行ってきた野良猫の管理手法についてTNRなどその他の手法と比較検討することにより、シェルターの役割や限界が見えてきます。もしシェルターが無駄な事業を実施しているのであれば、そのリソースを他の事業に振り向けることもできます。同時に、野生生物保護の観点からシェルターによる野良猫の収容に期待している人たちにとっても、シェルターの役割や限界を認識することは有益でしょう。

 

論文によると、シェルターが関与する野良猫の管理方法は次の3つに分類されます。

・removal (whether for adoption, relocation, or euthanasia)(収容:譲渡、移住、安楽殺問わず)

・sterilization and return to the location of origin(避妊去勢手術を施し元の場所に戻す)

・leaving cats in place with or without referral to additional resources(他のリソースに付託するかしないかにかかわらず、猫を放置する)

 

※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081