HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文によると、野良猫の管理においてはその手法もさながら、野良猫の動態や野良猫に対する地域住民の認識を理解することも重要です。
野良猫の動態
飼い主のいない猫は米国では3,000万~8,000万頭、カナダでは140万~420万頭いるといわれています。対して飼い猫は米国で7,000万~1億頭、カナダで1,000万頭いるといわれています。飼い猫の25~85%が室内飼育で、80%以上が避妊去勢手術を受けているとはいえ、やはり飼い猫が野良猫の重要な供給源であるといえます。
重要なことは、野良猫の議論の中心は “colonies”(コロニー:餌場の近くに大集団で暮らす猫)になる傾向がありますが、そのような猫は野良猫の5%未満にすぎないということです。多くの野良猫は1~数頭の単位で散在しています。そのような野良猫は発見が難しく、多くの場合地域住民の気づきにより発見され、シェルターは苦情や懸念という形で情報を探知することになります。つまり小集団の野良猫の管理には、地域住民の協力が不可欠というわけです。
地域住民の認識
大多数の野良猫の管理に地域住民の協力が不可欠ということは、野良猫の管理もまた地域住民が納得する方法で実施しなければならないことを意味します。TNRについては、米国やカナダの地域住民の大多数の支持を受けていることが複数の調査により報告されています。
安楽殺の問題を脇に置けば、野良猫をシェルターに収容することについては、地域住民の支持が得られているようです。カリフォルニア州における調査によると、回答者の76%がRTF(シェルターに収容した野良猫に避妊去勢手術を施し、保護場所に戻す)を支持し、73%が野良猫や野良犬の収容を支持していました。
しかし、シェルターにおいて安楽殺の可能性があるということになると、支持は大幅に低下します。例えば米国におけるある調査では、回答者の80%以上が、安楽殺されるくらいなら猫をそのままにしておくと答えています。オンタリオ州ゲルフで行われた調査では、多くの回答者がシェルターでの安楽殺は野良猫の管理方法として不適切で、「何もしない」方がましと考えていると報告されています。また安楽殺が適切であると回答した人においても、道徳的不快感があることが明らかになりました。対照的に避妊去勢手術サービスの提供、猫の飼い主教育、およびTNRは、回答者の4分の3以上が適切であると回答しました。
これらの結果を総合すると、地域住民は猫が安楽殺されるかもしれないと思うと、シェルターを利用したり、シェルター事業に協力することを躊躇するであろうことは容易に想像がつきます。それは飼い主教育や避妊去勢手術といったシェルター事業から飼い主を遠ざけることに加え、飼い主が飼いきれなくなった猫がシェルターに持ち込まれることなく遺棄され、コロニーの拡大や野外繁殖などにつながるおそれもあることを意味します。
※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081