野良猫の管理について再考する その9

HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文で述べられている、シェルターが関与する(shelter-based)野良猫の管理手法の一つ目は、野良猫を環境から除去(removal)し収容するというものです。

 

猫はどうなの?

前回「コヨーテを50%以上駆除したが、8カ月以内に個体数が元に戻った」という報告をご紹介しましたが、「それってコヨーテの話ですよね」というツッコミは当然あるでしょう。Palmasら (2020)は、半島部で44%の猫を1ヶ月間集中的に駆除したところ、3ヶ月以内に猫の数は駆除前のレベルに戻ったと報告しています。つまり個体数が環境の収容力まで回復する傾向については、野良猫も同じということです。

 

野良猫捕獲のしきい値は?

野良猫の個体数を減少させるために必要な捕獲数(しきい値)の計算については複数の報告があり、50%以上と見積もられています。TNRのしきい値(つまり野良猫の手術&リターン数)が57%~90%と言われていますから、それよりは低いものの、かなりキツい数字です。

具体的な数字で示してみましょう。米国における飼い主のいない猫の数をどんなに低く見積もったとしても、50%の猫を収容しようとした場合、その数は1,500万頭になります。2019年に全米のシェルターに収容された野良猫は134万頭と推定されていますから、その10倍以上です。

 

収容の限界

シェルターにおける野良猫の収容数としきい値とのギャップについて、もう少し見てみましょう。シェルターに年間134万頭の猫が収容されるということは、1日平均3,659頭ということになります。飼い主がいない猫の最低見積もり数は3,000万頭ですから、8,200頭のうちの1頭が日々シェルターに収容されている計算になります。日々8,000分の1未満の野良猫を無作為に収容することが個体数減少に効果的であるという考え方を裏付ける、もっともらしい生物学的根拠はまったくありません。

 

つまりシェルターがその収容能力の範囲内で野良猫を受入れることは、負傷や病気など動物福祉の観点においては意味がありますが、野良猫の個体数減少という観点からはまさに「焼け石に水」であるといえます。かつて日本においても、野良猫を積極的に収容しそのほとんどを殺処分するということを長年続けてきました。当時は収容能力などという概念もなく、引取った猫が即日殺処分されることも珍しくはありませんでした。それでも野良猫の個体数が減ったと実感することはありませんでした。現在日本においては、野良猫の収容を極力減らし、そのまま野に置く方向に政策を転換しています。

 

※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081