野良猫の管理について再考する その10

HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文で述べられている、シェルターが関与する(shelter-based)野良猫の管理手法の一つ目は、野良猫を環境から除去(removal)し収容するというものです。

 

除去失敗による悪影響

野良猫の捕獲数がしきい値に達しない場合、個体数減少を図ることができないところか、悪影響を招きかねないと論文は指摘します。それは「年齢構成の幼若化」と「流入による個体数の増加」です。

 

年齢構成の幼若化

野良猫を中途半端に環境中から除去すると、その個体数は環境の収容力まで回復しようとします。除去された個体数は新たな繁殖で補おうとしますから、結果的に個体数に占める子猫の割合が高まります。この現象を「年齢構成の幼若化」(juvenile-shifted age structure)といいます。年齢構成の幼若化は、衛生上および福祉上の悪影響をおよぼすおそれがあります。

子猫は回虫、鉤虫、トキソプラズマなど、公衆衛生や動物衛生の観点から懸念される多くの病原体に感染しやすく、排出しやすい傾向があります。つまり年齢構成の幼若化は感染症の伝播リスクを高めるといえます。

また年齢構成の幼若化により、苦しみながら死んでいく子猫が増える懸念があります。野良猫の成猫の死亡率が10%程度であるのに対し、野外で生まれた子猫の死亡率は75%に達するからです。死んだ子猫の個体数は新たな繁殖で補充されますから、悪循環が続いていくことが懸念されます。

 

流入による個体数の増加

論文においては、野良猫を環境から除去することにより、その個体群の全体的な規模が逆に増大し、環境負荷やリスクも増大する可能性が指摘されています。Lazenbyら(2014) は周囲から隔絶されていない、オープンな地域で30%の野良猫を駆除した場合の影響を評価しました。その結果、野良猫の個体数は75%~200%増加しました。著者らは、これは最も支配的な成猫の駆除に反応して新しい個体が移動してきた結果だと推測しています。駆除が中止されると野良猫の数は減少し、駆除前のレベルで安定しました。

この研究は、野良猫の無計画な駆除は効果がないだけでなく、開けた地域の個体群における野良猫の影響を増大させる可能性があることを示しています。この研究では野良猫の駆除が行われましたが、野良猫を環境から除去するという点においては、捕獲してシェルターに収容することも全く同じです。つまり野良猫をその場しのぎでシェルターに収容することは効果がないだけでなく、本来保護すべきである野生生物への危害を増大させる可能性があることを示唆しています。

 

※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081