HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文で述べられている、シェルターが関与する(shelter-based)野良猫の管理手法の一つ目は、野良猫を環境から除去(removal)し収容するというものです。
除去失敗による機会費用
論文は、野良猫の環境からの除去に失敗すると、子猫が増えてしまったり、流入により個体数を増してしまうといった可能性を指摘していますが、さらに機会費用の問題もあるといいます。機会費用(opportunity cost)とは、ある選択を行うことで失ったものの価値をいいます。そこには資源の無駄遣いや、より効果的な解決策を見出し実行しようとする動機の低下などが含まれます。例えばコヨーテの中途半端な駆除には効果がないことが報告されていますが、Bergstromら(2013)はその機会費用についてこう述べています。
「民間の畜産農家が、政府補助金による捕食動物の駆除によって、捕食動物の損失コストを外部化できる限り、責任ある畜産技術、すなわち、飼養頭数を減らす、死骸や後産を速やかに除去する、夜間や分娩/産仔の間は牛群を閉じ込める、フェンスを設置する...またはその他多くの非致死的な予防法を用いて、牛の捕食を回避するなどといった対策を行う動機はほとんどないだろう」
要するに、政府の補助でコヨーテの駆除事業が実施されている限り、畜産農家はそれだけに頼って自ら何もしないということです。実際にカリフォルニア州マリン郡でコヨーテの致死的管理が禁止された際には、畜産農家は電気柵の設置でこれに対応し一定の成果をあげました。
同様のことが野良猫の管理にもいえます。野良猫の存在による様々なリスク、例えば迷惑行為、野生生物への危害、公衆衛生上の問題といった課題については、緩和策が数多く存在します。効果が薄い収容への依存から解放されることにより、代替策を実施するための資源や動機が生まれるかもしれません。
全米動物ケア・コントロール協会(National Animal Care and Control Association:NACA)は2021年にこのような声明を発表しています。
“It is the position of NACA that indiscriminate pick up or admission of healthy, free-roaming cats, regardless of temperament, for any purpose other than TNR/SNR, fails to serve commonly held goals of community animal management and protection programs and, as such, is a misuse of time and public funds and should be avoided.”
「NACAの立場としては、TNR/SNR以外の目的で、気質に関わらず、健康な野良猫を無差別に引き取ったり、受け入れたりすることは、地域の動物保護管理事業の一般的な目標に資するものではなく、時間と公金の誤用であり、避けるべきである」
(訳者注)SNR:シェルターに収容された野良猫に避妊去勢手術を施し、保護場所に戻す事業。RTFともいう。
※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081す