野良猫の管理について再考する その13

HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文で述べられている、シェルターが関与する(shelter-based)野良猫の管理手法の二つ目は、野良猫に避妊去勢手術を施し保護場所に戻すというものです。

 

避妊去勢手術とリターン

北米における野良猫の管理方法の主流は1世紀以上にわたり「シェルターへの収容」でしたが、「避妊去勢手術とリターン」を取り入れるシェルターが増えています。この事業はSNR (Shelter-Neuter-Return)、RTF (Return-to-Field)、RTH (Return-to-Home) などと呼ばれています。また包括的に“Community Cat Programs” (CCP)と呼ばれることもあります。

この事業でやっていること自体は、基本的にTNR(Trap-Neuter-Return)と同じです。つまりシェルターに収容された健康な野良猫に避妊去勢手術とワクチン接種、そして耳カットを行い、保護場所に戻すというものです。TNRとの主な違いは、猫の出所です。TNRは最初からそれを目的としてボランティアによって捕獲された野良猫を対象としますが、シェルターのリターン事業は迷惑行為や野生生物保護、福祉上の懸念等を理由に、住民によってシェルターに持ち込まれた、もしくは動物管理員によって保護された野良猫が対象となります。そのため、世話人がいない小集団といった、TNRの対象になりにくい野良猫を対象にすることができます。

 

リターン事業の利点

そもそも野良猫のリターンは、健康だが性格的理由で譲渡に向かないと判断された野良猫の安楽殺を回避するための方法として考えられました。しかしシェルターのリターン事業のさらなる利点が明らかになり、人慣れした野良猫も対象とするようになりました。

ここで重要なことは、健康な野良猫は保護場所に戻された場合、以前利用していた食料源を利用し続ける可能性が高いということです。そのため、その地域に住む避妊去勢手術未実施の野良猫がその食料源を利用できず、野良猫の除去に反応して起こる繁殖や新規個体の流入を防ぐことができます。

JohnsonとCicirelli (2014)およびSpeharとWolf(2018)の報告によると、野良猫のリターン事業を実施したシェルターにおいて、猫の収容数が29~38%減少し、また路上から回収した猫の死体数が20~29%減少したとされています。この現象はリターン事業による過剰繁殖の抑制や新規個体の流入防止による効果の可能性があります。もちろん収容数の減少はさまざまな要因に基づくため、それだけで説明できるわけではありませんが、かつて同じ地域で年間何千頭もの野良猫が収容によって除去されたにもかかわらず、野良猫の個体数が横ばいもしくは増加していたことと対照的です。

 

※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081