HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文で述べられている、シェルターが関与する(shelter-based)野良猫の管理手法の二つ目は、野良猫に避妊去勢手術を施し保護場所に戻すというものです。
シェルターによるリターン事業がもたらす二次被害軽減の機会
シェルターに収容された野良猫に避妊去勢手術を施し保護場所に戻す事業は、シェルターが迷子動物の管理を担うべきと思いながらも動物の安楽殺には反対する、大多数の住民と協働する道を開きます。論文はこういった層の人々が参画することにより、シェルターへの収容やTNRといった従来の対策では実現できなかったかもしれない、野良猫による二次被害軽減(harm reduction)の機会が生まれるとしています。
健康な野良猫がいるということは、その猫が発見された場所に食料源があることを意味します。一見野良猫が集まっていないように見えたとしても、他の猫とともにその食料源を利用している可能性は極めて高いといえます。環境中から野良猫を除去するだけでは、このような食料源の特定や、他の避妊去勢手術未実施の野良猫の発見、餌やり者(caregivers)への指導、およびその他の被害緩和措置を講じる機会や動機を与えることはできないと論文はいいます。それに対して、リターン事業はそのような機会を何度も与えてくれるといいます。
「苦情者」との関わり
野良猫を捕獲しシェルターに持ち込む理由が単に「迷惑だから」という人であっても、長期的な解決策を練る上で重要な役割を果たすと論文はいいます。シェルターは繰り返し野良猫を持ち込む「常連」の存在を認識しながらも、都度引取ることで一時しのぎの救済を与え、根本的な対策を取るための動機を削いできました。その結果、新たな野良猫が出現し、シェルターに持ち込まれるという悪循環が続いてきたわけです。
対照的に、苦情者は猫がリターンされることを知らされると、より長期的な解決策を見出します。場合によっては、苦情者が自らゴミ箱に蓋をするとか、ドッグフードの入ったボウルをベランダに放置しないといった何らかの方法で、環境を変えることになります。これには、野良猫の環境収容力を低下させる(同時に、問題となりうる他の野生生物の食料源を減らす)だけでなく、苦情の解決にもつながるという利点があります。また避妊去勢手術は猫の健康を改善すると同時に、繁殖行動に起因する徘徊や迷惑行為を減少させるという直接的な利点もあります。苦情者は自宅周辺の状況に精通しているため、フォローアップのためにTNRを実施しようとした場合、対象の猫を特定することが容易になります。このように苦情者と関わることにより、野良猫の小集団を特定することができ、野良猫の避妊去勢手術をきめ細やかに進めることができると論文はいいます。
※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081