野良猫の管理について再考する その15

HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文で述べられている、シェルターが関与する(shelter-based)野良猫の管理手法の二つ目は、野良猫に避妊去勢手術を施し保護場所に戻すというものです。

 

シェルターによるリターン事業がもたらす二次被害軽減の機会 ※続き

シェルターに収容された野良猫に避妊去勢手術を施し保護場所に戻す事業は、いわゆる餌やり者(caregivers)に対する教育の機会を与えてくれると論文はいいます。

 

餌やり者へのアクセスの機会

野良猫を捕獲場所にリターンする際に、苦情者が気づかなかった他の猫や餌やり者の存在に気づくことがあります。また野良猫のリターン事業の際にはその旨を近隣住民に周知する必要があるため、ドアハンガー型のチラシを各戸にかけたり、リターンする猫に事業内容をプリントした脱着首輪(breakaway collars)を装着するといったことが行われますが、そういった媒体が餌やり者の目に留まることも考えられます。またシェルターが低コストの避妊去勢手術を提供することにより、餌やり者と直接、またはボランティアを通じて接触する機会が生まれるかもしれません。

 

餌やり者への指導

餌やり者や関連する地域住民と関わることの価値を過小評価すべきでないと論文はいいます。米国において野良猫の餌やりは一般的な行動で、各種調査によると回答者の7%~26%が自分の飼い猫ではない猫に餌を与えていて、餌を与えている野良猫の平均数は1人当たり2.6~4頭といわれています。数頭の野良猫への餌やりは私有地でひっそりと行われることが多く、規制は事実上不可能です。しかし野良猫へのむやみな餌やりは環境収容数を増加させ、野良猫の一部を環境から除去することと同様、過剰繁殖や新規個体の流入を招きかねません。そのため、餌やり者に対し以下のような指導が必要です。

 

給餌量の調整

猫が30分以内に食べる量だけを与えること。

 

給餌場所

他の動物の利用を防ぐため、餌場は高い位置に設置すること。

 

餌場の清掃

餌場は1か所に集約し、常に清潔に保つこと。

 

餌場の管理

定時に給餌を行うことにより猫の個体管理に努め、新参猫に対する適切な措置(TNRなど)がとれるようにすること。

 

※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081