野良猫の管理について再考する その16

HurleyとLevy (2022)※の“Rethinking the Animal Shelter’s Role in Free-Roaming Cat Management”(野良猫の管理におけるアニマルシェルターの役割を再考する)という論文で述べられている、シェルターが関与する(shelter-based)野良猫の管理手法の三つ目は、野良猫をそのままにしておく(leaving cats in place)というものです。

 

野良猫をそのままにしておく(leaving cats in place)

「野良猫をそのままにしておく」というのは一見無責任に聞こえますが、多くのシェルターがこの手法を用いているといえます。なぜなら、前述のとおり北米のシェルターに日々収容される飼い主不明の猫は8,000頭に1頭に過ぎないため、実質的には何もしていないことと同じですし、避妊去勢手術のリソースを有していないシェルターには野良猫のリターンという選択肢がないからです。また仮にシェルターが収容のための十分な資源を有していたとしても、収容は必ずしも効果的かつ人道的な選択であるとは言い切れません。地域に根差した代替手段の方が公平で人道的であり望ましい選択であるという認識が、一般市民の間に広がりつつあります。

 

「戦略的に」何もしない

上記のことを考慮すると、シェルターは「仕方がなく」野良猫をそのままにするというよりも、あえて「戦略的に」何もしないという考え方もアリなのではないかと、論文は提起しています。ほとんどの野良猫が地域に留まることを前提にすることにより、シェルターがどの野良猫を収容すべきかをより戦略的に考えるようになりますし、同時に野外にいる野良猫の個体数の安定化や迷惑行為の低減といった対策に資源を投入することができます。

 

ハーム・リダクション(二次被害防止)の提供

たとえシェルターが「何もしない」としても、本当に何もしないわけにはいきません。シェルターは一定数の野良猫が存在することを前提に、野良猫による被害の軽減のための支援や教育を提供することができます。例えば野良猫に関する苦情の申し出があった際に、猫を駆除するのではなく、苦情者に対して二次被害防止策を提案することが考えられます。野良猫に関する二次被害防止策としては次のようなことがあげられます。

・餌になるようなものを野外に放置しない

・忌避剤や猫除け器などを使用する

・塀の補修や敷地内の片づけなどにより、野良猫の侵入や生息を防止する

 

餌やり者への教育

同時に野良猫への餌やり者(caregivers)に対し、適切な給餌や排せつ物の処理などについて指導することも必要です。また猫の避妊去勢手術の普及も重要です。シェルターが直接避妊去勢手術サービスを提供できないとしても、クーポン券の配布や捕獲器の貸し出し、地元動物病院の紹介などの支援は可能です。

 

※ Frontiers in Veterinary Science | www.frontiersin.org March 2022 | Volume 9 | Article 847081